注目ポイント
電機大手シャープの経営が悪化し、日台の企業提携が試練を迎えている。台湾の親会社、鴻海精密工業はシャープに改善計画を要請し、成果が上がらなければ、経営陣の交代も求める構えだ。ただ、主因である業績不振の液晶パネル工場運営会社の完全子会社化について、日本の株主からは鴻海側の意向ではないかとの疑念の声も出ており、日台協力のシンボルともてはやされたシャープの経営の先行きは不透明感を増している。
郭氏が社内説き伏せ買収、黒字化も…
シャープは2023年3月期の連結決算で、2608億円に上る巨額の最終赤字に陥った。最終赤字に転落したのは2017年以来6年ぶりで、赤字額は過去3番目の大きさとなる。最大の原因が、堺工場(大阪府堺市)を運営する子会社、堺ディスプレイプロダクト(SDP)の生産設備の収益力を見直した結果、1884億円の減損損失を計上したことだった。
堺工場は2009年、シャープが4300億円を投じて建設した。だが、韓国や中国のメーカーとの価格競争が激化し、液晶パネルの市況が低迷。これに伴って、シャープは2012年3月期に3760億円の赤字を出し、経営危機が表面化した。鴻海の創業者で当時会長だった郭台銘氏はシャープ経営陣から請われ、個人資産管理会社を通じてSDPに660億円を出資して37.61%の株式を取得し、シャープと鴻海は堺工場を共同運営するようになった。

© SOPA Images/LightRocket via Gett
EMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手の鴻海の力を借りて危機脱出を図ったシャープだったが、2015年3月期には2223億円の赤字に転落し、再び崖っぷちに立たされた。ここで、またもシャープ救済に名乗りを上げたのが郭氏だった。世界の産業界をリードしてきた日本企業に敬意を抱いていた郭氏は、シャープの技術力を高く評価し、SDPへの出資当時からシャープ本体にも出資したいとラブコールを送り続けてきた。台湾メディアは、郭氏のシャープへの入れ込みようを、恋愛に例えて「鴻夏恋」(夏はシャープの中国語名「夏普」のこと)と呼んだほどだ。
買収後に経営再建の司令塔として鴻海からシャープに送り込まれた郭氏の右腕の戴正呉氏は、自著『シャープ 再生への道』(日本経済新聞出版)で、郭氏が鴻海の社内会議で反対意見を説き伏せ、シャープ買収を主導した内幕を明かしている。結局、鴻海は日本の官民ファンド、産業革新機構との競争を制して2016年、シャープに3888億円を出資して66.07%の筆頭株主となり、シャープ買収を実現した。
戴氏はシャープの最高経営責任者(CEO)に就任して徹底的なコストカットを進め、2018年3月期に4年ぶりに最終黒字に転換するなど、経営を立て直した。2022年3月には、CEOを鴻海出身でシャープ常務執行役員に就いていた呉柏勲氏にバトンタッチし、退任した。

© AFP via Getty Images
「不明朗」と追及されたSDP買収の経緯
その経営体制移行と同時に持ち上がったのが、堺ディスプレイプロダクト(SDP)買収問題だった。郭氏は2019年までに、個人資産管理会社を通じて保有していたSDP株を投資会社に売却していた。シャープは2022年6月、投資会社と株式交換方式でSDP株を取得。自社の保有株と合わせ、完全子会社化した。株価から単純計算した取得額は約400億円となる。