2023-07-30 ライフ

老木への想い 木の物語に耳を傾けて

注目ポイント

「私は、常に木とともに。」巨大な老木が人々に寄り添いながら、四季が過ぎていく風景は、町内や村、キャンパスにおいてよく見られる。まるで一冊の地方志のように、老木は、土地を見守り、環境の変化の証人となる。しかし、老木それ自体の来歴について知ろうとしたことがあるだろうか?椅子を引きよせて、木の下に腰を下ろし、木と郷土の物語に耳を傾けようではないか。

文・郭美瑜  写真・林旻萱  翻訳・笹岡 敦子

「私は、常に木とともに。」巨大な老木が人々に寄り添いながら、四季が過ぎていく風景は、町内や村、キャンパスにおいてよく見られる。まるで一冊の地方志のように、老木は、土地を見守り、環境の変化の証人となる。しかし、老木それ自体の来歴について知ろうとしたことがあるだろうか?椅子を引きよせて、木の下に腰を下ろし、木と郷土の物語に耳を傾けようではないか。

草屯鎮坪頂里の里長・曽万水が、七股の大クスノキの伝説を観光客に紹介する。

台湾で唯一海に面していない県である南投県へ車を走らせ、草屯鎮坪頂里七股に向かい、標高342mにそびえ立つ大クスノキを訪ねた。巨木を見上げる。その鬱蒼と茂った樹冠から大気に広がるクスノキ特有の芳しい香りに、心が安らぎ晴れ晴れとする。近くには避雷針が建てられており、雷撃から巨木を守っている。この美しい巨木と趣のある山の風景を目指し、人々は仲間を伴い、山に登ってこの巨木を鑑賞しようとする。

南投県の調査によると、この七股の大クスノキは、樹齢600年以上・胸高直径2.5m・幹周8m・樹高30mで、その樹冠投影面積は800平方mにおよぶ。地元で里長を務める曽万水によると、日本統治時代、樟脳産業が盛んで、作業員がこの巨木を切り倒そうと、手始めに根本の草むしりをしただけで腹がきしむように痛み出したという。別人が引き継いで何度試みても、調子が悪くなった。以来、地元の人々は、大クスノキには霊験があると考え、木の下に長テーブルを置いて拝むようになったという。こうして巨木は残され、休日には観光バスが観光客を載せて訪れるようになった。

同県にはもう一か所、草屯鎮碧峰里の龍徳廟の前庭に推定樹齢230年とされるガジュマルの老木がある。1959年、中南部八七水害の際、多くの村人が老木に登って水難から逃れたため、この老木は「救命樹」と呼ばれるようになった。80才を迎えた長老の林弘本は、八七水害を実際に体験している。老木の前におかれた長椅子に腰を下ろし、自らも龍徳廟の祭壇の上に飛び乗りながら目撃した老木が人々を救う光景を語ってくれた。「ぎゅうぎゅう詰めの列車みたいでした。」六、七十人ほどが、老木の幹をよじ登ったり、枝に座り込んだりして丸一日を過ごし、夜になり水が引くまで下りられなかった。「あの後もう一度登ってみようとしても、できませんでした」と言う。

龍徳廟の文献組長である詹登発によれば、ガジュマルの老木の樹齢は、廟と同年齢である。人命が救われたことから、村人はこの木に「神秘的力」があると信じていると言う。水害から三年後、感謝の念を込めて老木の下に「ガジュマル公」として小さな祠が祀られ、民衆が参拝するようになった。その後、県が老木の前の道の道幅を広げようとしたが、「老木を見て育った」地域住民からすれば、老木を移転させることは受け入れ難く、何度も移動撤回を陳情した。ついに、作業員がパワーショベルから地面に落ちるという事故まで起きて、行政もガジュマルを残す方向に方向転換する。道路は老木を避けて迂回することで「人も老木も共存」する落とし所を得たと言う。

人・神・樹木のふれあい

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