注目ポイント
就任半年余で解任された中国の秦剛外相。後任には前外相で外交を統括する王毅政治局委員が任命されるという異例の人事や、中国外務省ホームページから秦氏の情報が一斉に削除されたことなどから「事実上の更迭」と目されている。健康問題や香港のテレビ局の女性キャスターとの関係を問題視されて調査を受けているといった情報も取りざたされているが、確かな解任理由は発表されていない。前駐米大使でもあり「戦狼外交」の旗手とも目された秦氏。アジア政治外交史の専門家が中国の政治化する対外政策を念頭に、解任劇によって推察される3つの可能性を列挙した。
どう見る?秦剛外交部長(国務委員)解任劇
秦剛氏は2023年6月にブリンケン国務長官らを迎えた後、25日にスリランカ外相およびベトナム外相、そしてロシア外務副大臣との会談を最後にその姿が見られなくなったとされている。
目下のところ事実関係が判然としないので、いくつかの可能性を列挙しておきたい。
第一に、単純に報道で言われているように女性問題や汚職、機密漏洩などの職務規定違反、あるいは「紀律」に反する行為があったとする見方がある。この可能性もあろうが、王毅―斉玉ラインが秦剛氏を守ろうとすれば一定程度は守れたであろう。
第二に、7月25日の全人代常務委員会で易綱氏が中央人民銀行総裁を辞任させられたように、欧米先進国との関係性についての管理統制フィルターが、外交部に限らず、党政府の諸部門で従来以上に強化された結果、従来は問題視されなかったものが問題視されるようになった可能性である。この場合は、外交部内のこれまでの動向よりも大きな動きが影響したということになる。
第三に、上記のような外交部、あるいは外交のあり方をめぐる動静の流れの中で秦剛氏解任を位置付ける見方である。ブリンケン国務長官との会談に問題があった可能性もあろう。ブリンケンとの会見では、王毅氏の厳しい表情に対して秦剛氏の笑顔は印象的であった。だが、それだけでは解任の理由にはならないだろう。いずれにせよ、秦剛氏を王毅―斉玉ラインが守らなかったということ、あるいは守りきれなかったということは確かだろう。そして、王毅氏の外交部長就任も、たとえ暫定的な任命であるにしても、中国共産党の外交(外事)委員会から国務院、外交部に至る一貫指導という点では、習近平政権の党の国務院への指導強化にかなうことにもなる。新たに王毅氏の後任が任命されるにしてもこうした一貫性は考慮されるだろう。目下、中国の外交政策、また外交部という組織は王毅―斉玉が一元的に把握したというようにも見えるが、中国共産党には中央対外連絡部などの組織があり対外政策に関わる機関は多様だ、また、王毅氏と斉玉氏との関係性についても判然としない点が多く、引き続き考察が必要である。
なお、最後になるが、秦剛氏が目下、国務委員については解任されてはいないという点をどう解釈するのかという課題が残されている。国務委員も追って解任されるのか、外交部長だけになるのか。この点についても引き続き注意深く見守る必要がある。
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