2023-07-27 政治・国際

NATO共同声明が中国の脅威について15回言及 しかし、アジア太平洋地域への勢力拡大は進まず

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注目ポイント

リトアニア共和国で7月11日から12日まで、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議が開催された。議題の中心はウクライナ問題とスウェーデンの加盟問題だったが「中国の脅威」についても、無視出来ない重要な問題として焦点が当てられた。NATO は中国の脅威を牽制するために、アジア太平洋地域へ徐々に勢力を拡大している。

 オーストラリアのポール・ジョン・キーティング元首相は、NATO首脳会議前に、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長がアジアとの関係を強化しようとすることについて「supreme fool」(究極の愚か者)だと非難し、欧米の軍国主義と関係をもつことは、アジア自身の利益を損なうことだと主張した。

フランスも、東京にNATOの連絡事務所を開設することに反対している。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、 首脳会議後の記者会見で「インド太平洋地域は北大西洋地域ではない。NATOは地理的拡大を試みるべきではない」と明言した。

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岸田文雄首相(左)とイェンス・ストルテンベルグNATO事務総長(右)

 

NATOのアジア太平洋地域への勢力拡大を阻むもの

NATO加盟国に対する中国の影響力はますます拡大し、無視できないものになっているが、現段階でNATOがアジア太平洋地域へ勢力拡大することは依然として難しい。米国の「TIME」 誌は、それには主に2つの理由があると報じている。

第一に「NATO は西ヨーロッパをソ連の脅威から守るために1949 年に設立されたが、1991年12月にソ連が崩壊した後、ロシアがウクライナに戦争を仕掛けるまで『存在意義を失っていた』という事実がある。NATOの本来の設立目的は「欧州加盟国の集団防衛」だったことを改めて自覚すべきであり、NATOが注意をアジアに分散すれば、本来の使命感が薄れ、欧州の防衛投資を活性化する取り組みも弱まるだろう」と分析する。

「NATOがアジアの安全保障問題に介入すれば、NATO加盟国間の結束を維持することが困難になる」「加盟国の中国の脅威に対抗する程度や方法は、すでに加盟国間ですでに大きな違いが生じている」と提言した。

第二に「実行面から見ても、NATOがアジアで通常の作戦を維持することは困難になるだろう」と「TIME」は指摘する。「米国、英国、フランスの3カ国を除くNATO加盟国には、たとえ意欲があってもアジアに勢力拡大する力がない。係争海域で自由航行のミッションを実行すれば、中国の怒りを招くだけで他に得るものはない。欧州の慢性的な軍備不足と現在の安全環境を鑑みれば、NATOの東方への勢力拡大は熟慮すべき問題である」

 

アジアの国々はNATO加盟についてどう考えているか?

日本、韓国、ニュージーランド、オーストラリアはNATOに期待を寄せる一方で、依然として慎重な姿勢を保っている。

日本の岸田首相は、5月24日の参議院本会議で「日本がNATOの加盟国・準加盟国になる計画はない」と発言した。オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相も、NATO首脳会議に出発する前に、ウクライナのNATO加入についてメディアから質問を受けたが「それはNATOの問題だ」と答えている。

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