注目ポイント
国際制裁下にあるロシアとイランが、スイスを経由して取引される小麦などの穀物を巡り、協力関係を築いている。人道的理由から容認される取引だが、デリケートな問題を生んでいる。
貨暴落と補助金削減により、イランではこの数年、食品価格が高騰している。国連食糧農業機関(FAO)の資産によると、イランで健康的な食事ができない人の数は2020年時点で1710万人(人口の2割以上に相当)と、2017年の960万人から急増した。
バトマンゲリジ氏は「イランは深刻な飢餓危機にこそ直面していないが、制裁により食料など必需品を手ごろな価格で入手できる状態が保証されなくなった」と指摘する。
新たな貿易ルート
ロシア・イラン関係の強化を象徴するのは小麦だけではない。ロシア政府は新たな貿易ルートの開拓にも熱心だ。2022年だけでも複数の首脳会談が取り持たれるなど、外交活動を活発化させている。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はウクライナ侵攻からわずか1カ月後、国際制裁を回避するためにイランと協力すると表明した。この宣言は、2つのならず者国家間の武器取引を阻止したい米国を警戒させた。
ロシアの主要プロジェクトの1つが、中央アジアとイランを経由してロシアとインドを結ぶ「南北交通回廊(INSTC)」だ。カスピ海とその周辺の鉄道、高速道路、航路のネットワークは、北海や地中海、スエズ運河を通る迂回ルートよりも短く、貨物の輸送時間とコストを大幅に削減できると見積もる。
INSTCは20年以上前から温められてきたプロジェクトだが、西側諸国による制裁を受けてロシアの動きは再加速した。2022年6月、サンクトペテルブルクからカスピ海を経由してムンバイに商品を送る試験輸送が行われた。一方、イランは一部の旧ソ連国家による自由貿易圏「ユーラシア経済連合」に加盟している。
報道によると、ロシア・イラン両政府は西側手動の国際送金システムを介さない直接的な金融チャネルの確立も急ぐ。イラン財務省によると、2022年4月~2023年3月の対イラン直接投資額の3分の2に当たる27億6000万ドルがロシアによる投資だった。
ただロシア・イランの蜜月関係には限界もある。INSTCの鉄道路線は未完成で、カスピ海の航路は運行されているが輸送能力は小さい。
バトマンゲリジ氏は、ロシアと関係を強化してもイランの困窮が一変する可能性は低いとみる。「イランの銀行業は今も制約を受けている。ロシアとイランにとって、世界市場で必需品を購入する代替サプライチェーンを構築するのは非常に難しいだろう」
それでもイラン貿易には商機がある――ジュネーブ穀物会議に出席した企業経営者らの野心の灯は消えていない。イランの観点から見ると、西側の市場とアプローチは支配力を失いつつあるのだ。
編集: Nerys Avery、英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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