注目ポイント
国際制裁下にあるロシアとイランが、スイスを経由して取引される小麦などの穀物を巡り、協力関係を築いている。人道的理由から容認される取引だが、デリケートな問題を生んでいる。
ルイ・ドレフュスは2022年の決算で、ウクライナ侵攻を受けてロシアでの事業を一時停止したがその後「適用されるすべての制裁、法律、規制を遵守しながら、顧客との約束と需要に応えることを目指し、可能な限り」再開したと述べている。ロイター通信は4月、同社が2023年7月にもロシア産穀物の輸出を停止する予定であると報じた。だがswissinfo.chの問い合わせに対し、広報は対イラン貿易に関する詳細やコメントを拒否した。
swissinfo.chはブンゲ、カーギル、COFCOに対しても、人道的理由による制裁免除を通じてロシア・イラン間の小麦取引が促進されるかどうか再三コメントを求めたが、返答はなかった。
支払い問題
人道的に許容されたとしても、イランとの穀物取引には困難が伴う。国際製粉業者協会の中東・アフリカ地域指導評議会のメンバー、メルザド・ジャムシディ氏はGrainCOMで、swissinfo.chの取材に「世界で最も厳しい制裁を科される国でビジネスを行うことがどれほど難しいのか、ほとんどの人は理解していない」と嘆いた。
長年にわたる金融制裁により、イランは国際銀行システムへの接続が遮断されている。このため輸入代金の決済は大きな問題だ。中東・中央アジアを専門とするシンクタンク、Bourse & Bazaar財団(本拠・ロンドン)のエスファンディヤル・バトマンゲリジ氏は「イランとの銀行取引には2つの問題がある」と話す。
「まず、欧州など他の銀行と(海外送金の中継地となる)コルレス銀行関係を維持しているイランの銀行はほとんどない」。大半の国際銀行は、たとえ人道目的であっても制裁対象国との取引には消極的だ。このため、イランの小麦輸入業者が輸出元に代金を支払うための送金ルートを見つけることが難しくなっているという。
現金の入手も制限されている。「問題は、イラン中央銀行(CBI)の持つ外貨準備の大部分が凍結され、イランが貿易の資金源としていたオイルマネーも入手が難しくなったことだ」(バトマンゲリジ氏)。米国はマネーロンダリングとテロ資金供与を取り締まるため、人道的貿易におけるCBIの関与を制限している。
CBIはイランの小麦など必需品向けの補助金制度の要でもあった。輸入コストを抑えるため貿易企業には有利な為替レートを提供していたが、制裁で現金需要にタイムリーに対応することができなくなり、補助金制度も機能不全に陥った。小麦輸送業者は支払いを待ちながら、数カ月もイランの港湾の外で待機させられている。
