注目ポイント
かつてオランダ人は「世界は神が創ったが、オランダ(の大地)はオランダ人が造った」と誇らしげに語ったものだ。しかし21世紀に入ると、オランダ政府は「土地を河川に返す」ことを決めた。数世紀にわたって農地や居住地として利用してきた川沿いの土地を河川に返し、川の空間を拡張し、従来の遊水地や調節池としての機能を回復させようという考えである。
昔の河川整備と言えば、洪水防止を重視して大規模に河相を変える工事を行ない、生物の生存はほとんど考慮されてこなかった。こうした不当な整備を調整し、河川と人間が共存共栄できる新しいモデルを見出さなければならないと、廖桂賢が所属するNGO「台湾河渓網協会」は、河川の生態系の機能と多様性を回復させるため、河川とそこに生息する生物の保全を呼びかけた。そうすることで河川は多様な「エコシステム・サービス」を提供できる。さらに最近は「自然を基盤とした解決策(Nature-based Solutions: NbS)」も提唱している。自然に従い、修復するという手段を通して気候緊急事態(climate emergency)に対応するというものだ。
劉柏宏はさらに、台北市文山区の万和一号公園の景観改造事案を例に挙げる。ここにはもともと景美渓の東支流が流れていたが、彼らはその水源を復元し、岸辺の老樹を残した。多様な植物とランドスケープが景観の脈絡を物語っていて、子供たちも歴史や昔の景観に触れられる。
政府部門が進める「前瞻計画」においても河川の生命力回復に取り組んでいる。王芸峰は、台中の東大渓、中興大学の康橋プラン、彰化の鹿港渓、新北市中和の藤寮坑溝などを挙げる。さまざまな目的と価値を持つ治水政策が採られていて、それぞれの環境に合わせて生態系の需要を満たしており、いずれも大きな意義を持つ。

誰もが参画する
「洪水があってはならないという考えから、洪水は怖くない、という考えへ変えることこそ重要な転換です」と廖桂賢は言う。洪水対策の手段だけではなく、考え方も変えなければならないのである。
王芸峰によると、台湾の水利法に「地表の雨水を分担して引き受け、流出をコントロールする」という章が加えられたことは、水害管理は政府だけのことではなく、一般の人々の任務でもあることを意味している。環境設計を担当するプロが創意を発揮し、政府も民間もレジリエンスの向上に努めなければならないのである。
景観設計のプロフェッショナルとして劉柏宏は「レジリエンスは単なる概念ではなく、プロとして具現化しなければなりません」と語る。「空間を改造する時、レジリエンスの概念を設計のコアに組み入れなければなりません。レジリエンスの概念を生活に取り入れてこそ、人々の考えを変えられるのです」と言う。
廖桂賢が2009年に出した『好城市(良い都市)』は、サステナブルな都市の理念を提唱し、言葉を通じて種をまいている。彼女は「台湾河渓ネット」の理事長として、政府の河川政策を監督するとともに、「台湾河渓学院」を開き、健全な河川の生態に関する入門課程を設け、多くの人に河川管理に関わってもらおうとしている。
自分の力を軽んじてはいけない。持続可能な将来のために、誰もが役割と責任を果たすことができるのである。




© 台北市工務局大地工程処提供
転載元:台湾光華雑誌