2023-07-22 ライフ

レジリエント・シティを目指して洪水と共生する道を歩む 

注目ポイント

かつてオランダ人は「世界は神が創ったが、オランダ(の大地)はオランダ人が造った」と誇らしげに語ったものだ。しかし21世紀に入ると、オランダ政府は「土地を河川に返す」ことを決めた。数世紀にわたって農地や居住地として利用してきた川沿いの土地を河川に返し、川の空間を拡張し、従来の遊水地や調節池としての機能を回復させようという考えである。

レジリエンスの基本的概念は「変動にいかに対応するか」ということだ。廖桂賢は河川を例に挙げる。河川の流れはもともと変動するもので、河道の堆積や河岸の浸食、洪水氾濫などは正常な現象である。ここで廖桂賢は「水害」と「洪水」は実は異なるものだと説明する。洪水というのは自然現象であり、中性的な言葉で、もともと河川沿いの地域や窪地などでは洪水が発生する可能性があることを指す。一方の水害は、洪水が人の営みのある地域を襲い、被害が出ることを指す。洪水は必ずしも水害とは言えず、適宜対応すれば害はもたらさない可能性もある。

典型的な洪水防止と言えば、まず考えるのは排水だ。一見合理的なようだが、これでは問題を他の地域に移すだけである。他の地域の水害リスクが高まるだけでなく、自然の河川の流れを変えるため、健全な生態系をも破壊する。さらに言えば、こうした施設建設は気候変動と都市の発展に追いつかず、水害リスクの増大を加速してしまうのである。

そこで廖桂賢は「洪水レジリエンス」という概念を提唱する。洪水を受け入れ、被害を受けない能力を育てるという意味で、「洪水耐性」とも言う。洪水に遭っても生命や財産の損害は出ず、社会機能も麻痺せず、正常な営みが続けられる力である。

「スポンジシティ」化は、こうした洪水耐性を高める手段の一つで、廖桂賢がこの概念を最も早く打ち出した。スポンジシティというのは、雨水を迅速に排水して他所へ流すという従来の考え方を変えるものだ。水の蒸発や浸透、貯水といった自然の水文メカニズムを通して地表を流れる雨水を減らし、都市設計を通してスポンジのように雨水を吸収し、洪水を減らすというものである。都市の地面はコンクリートやアスファルトに覆われて水を通さないため、大量の雨水が地表を流れることとなる。集中豪雨に襲われれば、優れた都市排水システムも雨水を有効に処理することができず、冠水してしまう。

「森を想像してみてください。雨が降ると、まず樹木が雨を受け止め、雨水は少しずつ幹を伝って下へ流れて土壌に染み込みます。コンクリートジャングルも、こうした森林の水文循環に近づけていかなければなりません」と廖桂賢は言う。建物の屋上の植栽や道路のグリーンベルトなどを活かし、また公園の緑地を「レインガーデン」や湿地に変えるといった方法で都市をスポンジシティ化できる。

洪水レジリエンスの概念は、新たな視野と政策の革新をもたらし、公的部門の水害対策に今までにない可能性を開くものだ。2019年に水利法が改正され、「地表を流れる雨水を分担して引き受け、流出をコントロールする」という戦略が打ち出された。これまですべて排水溝や下水道が担ってきた地表の雨水の流れを、地面も分担するということだ。この法令は、政府と土地開発者に対して雨水の貯留を要求し、土地全体の洪水耐性を高めていくものだ。「人間が利用するあらゆる土地が、洪水防止の使命を負い、地表の雨水量を分担する機能を持つということです」と王芸峰は説明する。台北市の永春陂湿地公園や大港墘公園などが、これを実現するためのモデルケースとして挙げられる。

生態系が回復し、鳥が戻ってくるというシンプルな喜びを味わう機会はある。

 

湿地の回復と保水

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