2023-07-22 ライフ

レジリエント・シティを目指して洪水と共生する道を歩む 

注目ポイント

かつてオランダ人は「世界は神が創ったが、オランダ(の大地)はオランダ人が造った」と誇らしげに語ったものだ。しかし21世紀に入ると、オランダ政府は「土地を河川に返す」ことを決めた。数世紀にわたって農地や居住地として利用してきた川沿いの土地を河川に返し、川の空間を拡張し、従来の遊水地や調節池としての機能を回復させようという考えである。

洪水と共生する道を歩む 

文・鄧慧純  写真・林格立 翻訳・山口 雪菜

かつてオランダ人は「世界は神が創ったが、オランダ(の大地)はオランダ人が造った」と誇らしげに語ったものだ。しかし21世紀に入ると、オランダ政府は「土地を河川に返す」ことを決めた。数世紀にわたって農地や居住地として利用してきた川沿いの土地を河川に返し、川の空間を拡張し、従来の遊水地や調節池としての機能を回復させようという考えである。

景観設計を専門とする経典工程コンサルティングの劉柏宏は、レジリエンスの概念を設計に取り入れ、それを生活に根付かせている。

予測しがたい極端な気象現象が増える中、世界では洪水と共生するという思考が生まれている。かつてのように堤防を高くして河川と対抗するという方法では、極端な豪雨には抵抗できないからだ。台湾も、こうした世界の流れと歩みを共にし、反省と行動が始まっている。

王芸峰によると、水利法に「地表の雨水の分担と流出のコントロール」という概念が加えられたことは、水害の管理は政府の責任であるだけでなく、一般市民もそれを担うべきであることを意味している。

 

洪水防止施設からレジリエンスへ

北太平洋還流沿いに位置する台湾の沖合では黒潮と親潮がぶつかり、5~6月の梅雨と台風の季節には総雨量が2500ミリに達する。台湾には3000メートル級の高山が多く、山地から平地までの勾配が大きいのに加え、局地的な集中豪雨が多いため水害が発生しやすく、また雨水を水資源として留めるのも容易ではない。「光華」取材班は、経済部水利署の王芸峰副署長と国立台北大学都市計画研究所の廖桂賢教授を訪ね、お二人に台湾の水資源の課題を語っていただいた。

人類は河川の水源を頼りに生活してきた。台湾では大多数の人が河川の沖積平野に暮らしているため、洪水のリスクを伴う。都市開発のために河川に堤防を築くというのは典型的な洪水対策だが、近年は短時間の集中豪雨が増え、1時間100ミリを超えることも少なくない。台北市は200年に一度の洪水を基準として設計されているが、それでも冠水することはある。そうした中、水利部門は少しずつ考えを変え、これまでの河道整備を主とする手段から、流域全体の保全へと広げている。技術者出身の王芸峰は、これまでの台湾の水利政策の変化と努力を語った。

従来の科学的計算による洪水防止施設では安全が保てなくなった。気候変動の問題が大きな話題となる中、政府からも民間からも今までとは違う「レジリエンス」という角度からの治水を考えるべきだという声が上がるようになった。

廖桂賢は「洪水レジリエンス」という概念を提唱する。洪水を受け入れ、それを災害にしない能力を培わなければならないということだ。

 

洪水レジリエンス

廖桂賢はこれまでシアトルや香港、シンガポール、ベルリン、札幌などの都市で暮らしたことがある。多くの地域で人と自然との持続可能な関係を観察し、水害対策における「レジリエンス」の応用を研究テーマとしてきた。「レジリエンスとは、自分を調整することによって外部からの干渉を受け入れて正常な働きを維持する能力を指します。システムの正常な働きが干渉を受けた時も、迅速に立て直し、本来の機能や定位、内部の基本構造を回復する力を言います」

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