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かつてない好況が続くスイスの時計産業界。スイス製腕時計の栄光は、ダイナミックで想像力豊かな時計デザイナーの功績によるところが大きい。swissinfo.chは陰で活躍するこれらのアーティストたちを取材し、その信条と葛藤を語ってもらった。
デザイナーであり、アーティストであり、時計職人でもあったジェラルド・ジェンタ。時計関係のメディアで「時計界のピカソ」として知られている。スイス製腕時計のベストセラーとして知られているオーデマピゲ「ロイヤルオーク(1972)」、パテック・フィリップ「ノーチラス(1976)」、IWC「インヂュニア(1976)」、ブルガリ「ブルガリ(1977)」などは、いずれもジェンタの作品だ。また「ジェラルド・ジェンタ・ヘリタージュ」協会によれば、あらゆるメーカーから受けた匿名での仕事も含めると、手がけた作品は10万作以上になるという。

© Audemars Piguet
オーデマピゲの「ロイヤルオーク」は、時計のいわゆる「アイコニックモデル」と言える。このモデルが、ヴォー州ル・ブラッシュを拠点とする独立系高級時計メーカーだったオーデマピゲを、時計市場で圧倒的な売上高を誇る4大メーカー「ビッグフォー」にまで一挙に押し上げた。毎年メーカー別ランキングを発表しているモルガンスタンレー銀行とコンサル会社LuxeConsultはオーデマピゲの年間売上高を20億フラン(約3200億円)と見積もる。
ジェンタは象徴的な八角形のスティール製腕時計「ロイヤルオーク」で、コンテンポラリーデザイナーの伝説的な存在となった。しかし時計デザイナーという職業時計業界において、いまだ、その価値に見合った評価を得られていない。
ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏:「美とメカニズムのバランスの探求」

© Bulgari
「時計職人とは、とてもいい関係にある。私たちは仕事のパートナーなのだ」。ブルガリのウォッチデザイン部のファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ部長は、こう切り出した。「けれども時として、強く出ることもある。彼らに図案を見せて、『これは不可能だ』と言われたときだ。私はいつも『一緒に挑戦してみましょう』と答えている」

© Bulgari
スティリアーニ氏によれば、多くの時計職人は、デザインの重要性を理解していないという。デザインは時計を考える上で絶対に欠かせない要素だ。一方で、彼らの姿勢もある程度は理解できる、とも話す。「職人たちは時計産業を、とても価値ある豊かなものにしてくれる。彼らは美しいほどに精巧な機械を造り出し、複雑な仕組みをさらに複雑にする。そして古いものに息吹を与え、そこから新しいものを生み出すことを誇りにしている」。デザイナーの仕事はまさに、こうしてできた作品にさらなる価値を付加して、多くの人々にお披露目することだ、と同氏は語る。
これを実現するための一番の方法は、美とメカニズム、それぞれのメリットを生かすことのできる妥協点を見つけるために、デザイナーと職人が協力することだ。「腕時計の外観がいくら美しくても、メカニズムが平凡なら、それは失敗作だ。その逆もまた然り。美とメカニックの均衡を保つことが大切なのだ」