2023-07-15 経済

医薬品・化学メーカーが健闘 4~6月スイス経済概況

© 観光部門は盛り返しそうだが、ルツェルンなどの主要観光地に中国人旅行者の姿が一気に戻る見込みは小さい Keystone / Christof Schuerpf

注目ポイント

底堅い内需、明るい見通しに湧く観光業、飛ぶように売れる高級時計。銀行危機や連続利上げに見舞われながらも、スイス経済は安定した成長を遂げている。2023年4~6月期を業界別に振り返る。

観光部門は盛り返しそうだが、ルツェルンなどの主要観光地に中国人旅行者の姿が一気に戻る見込みは小さい Keystone / Christof Schuerpf

1)成長は鈍化、インフレ継続

連邦経済省経済管轄局(SECO)は先月15日、2023年の成長率予測他のサイトへを0.8%、24年を1.8%と、3月時点の予測に据え置いた。2022年は2.1%伸び、今年1~6月も輸出の増加や内需が景気を下支えしている。だがSECOは、米欧中央銀行の金融引き締めにより国際的な需要が抑制され、7~12月期はスイス経済も減速する可能性があるとみる。

スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は2023年のインフレ率予想をこれまでの2.6%から2.2%に下方修正した。ウクライナ戦争による石油・ガス価格の高騰の一服や、ドルやユーロに対するフラン相場の上昇で輸入品価格が下落したことが引き下げの背景にある。

一方でSNBは先月22日、中期的なインフレ継続リスクを踏まえて政策金利を0.25%高い1.75%に引き上げると決定した。これまでの利上げがインフレ抑制にある程度貢献したと自負するも、物価安定のためにさらなる利上げの可能性もちらつかせる。

一方で2024年のインフレ率見通しはこれまでの2.0%から2.2%に引き上げた。来年は電気料金や家賃が上昇し、輸入インフレ圧力が予想より長引くとみているためだ。

2)夏の観光シーズンに高まる期待

スイス観光業界は、まもなく始まる夏の観光シーズンを楽観している。スイス観光局の調査他のサイトへによると、ホテル経営者は今夏の売上げが昨年を大きく上回ると見込む。宿泊件数は前年比27%伸びると予想。山岳地帯だけでなく、パンデミックで閑散としていた都市部にも期待が広がる。

とりわけ新型コロナ対策の渡航制限が撤廃された非欧州圏からの観光客が21%増と、全体を牽引しそうだ。ただ過去最高を記録した2019年夏の水準には戻らない。

特に伸び悩むのは中国人観光客だ。スイス観光局の広報担当リエン・ブルカード氏は、「1~4月の『中華圏』からのホテル宿泊数は、2019年同期比で7割近く少ない。この夏に中国人観光客が大幅に戻るとは期待していない。今後数週間、スイスで休暇を過ごすのは散発的な個人旅行か小規模団体だ」と語った。 

欧州からの観光客は増え続けるものの、増加ペースは15%と昨夏より鈍化しそうだ。フラン高とインフレにより、欧州圏の観光客にとってスイス旅行は割高だ。

国内旅行者に関する見通しはさらに暗い。近年は国内旅行者が記録的な多さに達していたが、その反動で国外旅行への需要が高まっているとみられる。

3)健闘する製薬業界

ロシュの1~3月期の売上高は3%減少した。パンデミック需要の反動が出たものの、医薬品や診断部門の力強い成長が相殺した。一部の製品はジェネリック(後発医薬品)メーカーとの競争が激化する一方、米国食品医薬品局(FDA)が悪性度の高い血液がんに対する治験薬を承認したことがいくらか明るい見通しをもたらしている。

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