注目ポイント
日本と北朝鮮の間で最近、「水面下接触」の情報が浮いて、沈んだ。日朝間では敏感な課題が扱われるため、「接触」は秘密裏に進められ、外部にはわかりにくい。それがメディアに漏れるとすれば、「接触」を快く思わない国(機関)が情報をつかみ、リークする時だろう。韓国メディアが最近、報じたこの「日朝の水面下接触」情報から何が読み取れるのか。
その状況にあって、拡大会議の党政治局報告に、注目すべき一文があった。「悪化する朝鮮半島の安全環境に対応するための軍事的・技術的に、政治的・外交的に鋭敏かつ機敏に対応すべき切迫性」という箇所だ。ここ数年、核・弾道ミサイル開発を加速させ、軍事力強化にまい進する北朝鮮が「政治的・外交的に鋭敏かつ機敏に対応」に触れているのだ。
この方針に沿った措置と思われるケースが2度ある。最初は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が6月23日に武装蜂起を呼びかけた際の、北朝鮮側の迅速なアクションだ。わずか2日後の同月25日、北朝鮮の任天一(イム・チョニル)外務次官がロシアのマツェゴラ駐北朝鮮大使に会い、「ロシア指導部が下す任意の選択と決定を強力に支持する」「対ウクライナ特殊軍事作戦で勝利すると確信する」として、いち早くプーチン政権支持を表明したのだ。
もう一つは、先に紹介した朴祥吉次官の談話だ。これも岸田首相発言の2日後だった。
ワグネルを取り巻く状況や岸田首相の真意が明確でない状況であっても、まずは「鋭敏かつ機敏」な対応を取り、少しでも「風穴」を開けられる可能性があるならば、そこに向けて積極的に動く――という考えが反映されているのではないか。
内政で膠着すれば、対外政策で突破口を開く。この考えは常に、北朝鮮の為政者の頭の中にはあるようだ。
金英哲人事
気になるシグナルはもう一つある。
2018~19年に北朝鮮が米国との首脳会談に打って出た際、重要な役割を果たした金英哲(キム・ヨンチョル)党統一戦線部顧問が、拡大会議の際に党政治局委員候補という地位に引き戻されたことだ。

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2018年6月、金英哲氏(当時は党中央委員会副委員長)は金総書記の特使として米ホワイトハウスで当時のトランプ大統領と会談し、初の米朝首脳会談を最終調整したという功績の持ち主だ。
金英哲氏は70代後半という年齢もあって、最近は党指導部からも離れていた。
今回の人事で、対米交渉に通じたこの金英哲氏が再び、党指導部に呼び戻した背景には、バイデン政権の「次」を念頭に米国とのディールに備えるため、米国の政治状況を正確に読み切りたい、という金総書記の意向を反映したものと言えないだろうか。
金英哲氏の人事に関連して、韓国の丁世鉉(チョン・セヒョン)元統一相は韓国メディアの取材に次のように解説している。
「北朝鮮は2018年には当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権に背負われて、米大統領に会いに行った。今回は岸田首相の背中に乗って同じことやろうとしているのではないか。そんな絵を描くなかで、金英哲氏の復帰を考えたのではないか」