注目ポイント
日本と北朝鮮の間で最近、「水面下接触」の情報が浮いて、沈んだ。日朝間では敏感な課題が扱われるため、「接触」は秘密裏に進められ、外部にはわかりにくい。それがメディアに漏れるとすれば、「接触」を快く思わない国(機関)が情報をつかみ、リークする時だろう。韓国メディアが最近、報じたこの「日朝の水面下接触」情報から何が読み取れるのか。
したがって「水面下接触」が進められていたとしても、拉致問題で「大きな進展」は期待できない。

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韓国紙の「特ダネ」
長々と「水面下接触」について振り返ったのには、わけがある。韓国紙・東亜日報が今月3日、「特ダネ」として、日朝が今年6月に第三国で数回にわたって実務接触を繰り返し、日本人の拉致問題や高官級協議の開催などについて意見交換をしていた、と報じたからだ。
これに先立つ5月27日、拉致問題に関する「国民大集会」に出席した岸田文雄首相は、日朝関係に触れて「私やわが国が主体的に動き、トップ同士の関係を構築していくことが極めて重要であると考えている」と強調した。そのうえで金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との首脳会談について「条件を付けず、いつでも直接向き合う決意だ」「全力で行動する」と表明し、そのための「首相直轄のハイレベル協議」を進める考えを示した。
一方、北朝鮮側も、そのわずか2日後、朴祥吉(パク・サンギル)外務次官が談話を出して「もし、日本が過去に縛られず、変化した国際的な流れと時代にふさわしく相手をありのまま認める大局的姿勢で新たな決断を下して関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日(日朝)両国が会えない理由はない」という立場を明らかにしている。
東亜日報は「このあと、実際の接触につながった」と書いている。
複数の関係者からの情報として、日朝の実務陣が2回以上接触した▽場所は中国やシンガポールなど▽日本側はこの実務接触について事前に米国に伝えていた――などと伝えている。
ただ、その実務接触で主要な懸案での立場の違いを縮めることはできなかったとも書いている。
おそらく韓国当局からのリークだろう。筆者も裏付け取材を進めたが、確信を持つには至らなかった。
この報道をどう見ればよいか。
現状を総合的に判断すれば、「拉致問題解決への第一歩」や「日朝国交正常化交渉再開」などの“ビッグディール”につながる可能性は、現時点ではほぼない。日朝双方がそれぞれの国内事情に押されて、まずは対話の入り口に立ってよいものか、相手側の本気度を確かめようとしていたとみるのが自然だろう。

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「外交的に鋭敏かつ機敏に対応」
ところで北朝鮮から最近、外交に関連した気になるシグナルが発信されている。
北朝鮮国内は、慢性的な経済難に加え、新型コロナウイルス感染対策としての防疫措置により、その厳しさに拍車がかかる。金総書記が力を入れる「5カ年計画」の達成も難しそうだ。総書記自らが指示した軍事偵察衛星の発射は失敗し、メンツがつぶれた。党中央委員会総会拡大会議(6月16~18日)の公式報道で映し出された金総書記の表情もさえなかった。

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