2023-07-18 政治・国際

日本と北朝鮮が「水面下接触」⁈ホントなのかホンキなのかエンギなのか【西岡省二の羅針儀】               

© 平壌で6月に開かれた朝鮮労働党中央委員会総会拡大会議(朝鮮中央通信のHPより)

注目ポイント

日本と北朝鮮の間で最近、「水面下接触」の情報が浮いて、沈んだ。日朝間では敏感な課題が扱われるため、「接触」は秘密裏に進められ、外部にはわかりにくい。それがメディアに漏れるとすれば、「接触」を快く思わない国(機関)が情報をつかみ、リークする時だろう。韓国メディアが最近、報じたこの「日朝の水面下接触」情報から何が読み取れるのか。

秘密裏の駆け引き

日朝間には日本人拉致をはじめ敏感な問題が多数あり、その取り扱いを誤ると、時の政権、特に日本側は大きなダメージを受ける。そのため、首脳会談や高官級協議に至るプロセスにおいて、実務陣は秘密裏に接触して駆け引きを繰り返す。

日本の首相の命を受けた官僚らが、北朝鮮の最高指導者に直結する核心人物と、その「敏感な問題」をめぐり、慎重に落としどころを探り合う。進展の有無はもちろん、「話し合いがあった」こと自体、表面化しにくい。

われわれ北朝鮮ウォッチャーは、たとえ不確かな情報源から発せられたものであっても「日朝水面下接触」の情報が浮上すれば、敏感に反応せざるを得ない。2002年9月の歴史的な日朝首脳会談につながったのも、外務省アジア大洋州局長だった田中均氏と北朝鮮側のカウンターパートとの間で繰り広げられた「水面下接触」が奏功したからだ。

日朝実務接触について報じる東亜日報サイト

 

拉致問題の壁

その一方、日朝間には拉致問題という最大の懸案がある。そもそもこの日本人拉致は、全面的に北朝鮮側に非があり、最高指導者自らが謝罪している。

だが、初の日朝首脳会談から20年以上たっても拉致問題は大きな進展を見せていない。日本側が「納得のいく説明や証拠の提示がない以上、被害者は全員、生存しているとの前提に立つ」「認定の有無にかかわらず、すべての被害者の安全確保・即時帰国のために全力を尽くす」という方針を掲げるのに対し、北朝鮮側は「すでに、後戻りできないよう、最終的に、完全無欠に解決された」という立場を繰り返し、それを変えない。拉致問題に対する北朝鮮側の本気度もはっきりしない。

被害者家族は焦燥感を抱く。高度な外交問題であるがゆえ、民間ルートで取り扱うのは難しく、結局は政府を突き動かすしか方法はない。

ところが、それを託された政治家は、この問題の複雑さを前に尻込みする。仮に、北朝鮮が日本側の要求通りに再調査を進めても再び「横田めぐみさんら8人死亡」など、深刻な結果を告げられた場合、それを日本国内に伝えて、「北朝鮮は調査を尽くした」「見返りを与える」と表明できるのか。

解決の糸口を探るため、どんなに精力的に取り組んでも必ず批判を受ける。それならば、ブルーリボンバッジをつけて“やっている感”を出し、「痛恨の極み」「一刻の猶予も許されない」という言葉を繰り返す。あとは静かにして世論が「フェイドアウト」するのを待つのが賢明だ――世論に敏感な政治家ならこう考えるだろう。

この状況に、日本国民は繰り返し接してきた。もはや有権者は「痛恨の極み」「一刻の猶予も許されない」という言葉を耳にしても、しらけるどころか、「何か政治的魂胆でもあるのか」とうさん臭ささえ感じてしまう。被害者やその家族のもどかしさ、いら立ちは想像にあまりある。

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