2023-07-17 政治・国際

豊かさで日本を超える台湾経済の強さと課題【近藤伸二の一筆入魂】

© GettyImages 「半導体戦争」の著者であるクリス・ミラー氏が、台北で開催されるフォーラム(CommonWealth Semiconductor Forum )で講演した=2023年3月16日

注目ポイント

台湾が豊かさで日本を超える日が近づいている。台湾は生活レベルの指標となる1人当たり名目GDP(国内総生産)で2022年、韓国を抜き、日本に肉薄した。半導体をはじめとするIT(情報技術)産業で世界を席巻し、さらなる躍進を遂げようとしている。土地は九州ほどの広さしかなく、人口も約2300万人と中規模で、資源にも恵まれない台湾が、なぜこれほど発展を続けているのか。その強みと課題に迫る。

台湾企業は、EMS(電子機器の受託製造サービス)業界でも圧倒的な勢力を誇っている。中でも最大の鴻海精密工業は、2022年12月期の売上高が6兆6270億台湾ドルという超巨大企業だ。米アップルのスマートフォンiPhoneの製造をほぼ独占的に請け負うなど世界のIT機器の生産拠点としての役割を果たしているほか、最近は電気自動車(EV)の受託生産などにも力を入れている。台湾には鴻海以外にも、売上高が2兆円を超えるEMSが5社もある。

ファウンドリーもEMSも受託生産に徹し、自社ブランドを持たないので、一般消費者からは見えにくいが、台湾企業なしには世界のIT産業は立ち行かないのが現実なのだ。なかなか低迷から抜け出せない日本経済からすると、このような主柱を持つ台湾経済は実に頼もしく映る。だが、このところ、台湾経済が抱える課題も鮮明になっている。

 

行く手に暗雲、不振長期化の兆しも

今年に入って、台湾のIT企業の売上が軒並み落ち込み、不振が長期化する兆しを見せているのである。TSMCの6月の売上高は前年同月比11.1%減で、4カ月連続で前年同月比マイナスとなった。コロナ禍で拡大したパソコンやスマートフォン向け半導体の需要が一巡し、調整期に入ったことが背景にある。

鴻海も6月の売上高は前年同月比19.7%減と大幅にダウンし、5カ月連続の減収となった。スマートフォン、パソコン、サーバーなど主力製品の需要が伸びず、EVなどの新規分野もまだ軌道に乗っていないためだ。他の主要な半導体メーカーやEMSの売上もそろって前年同月期を下回った。

大手IT企業の業績低迷を受け、台湾の2023年1~3月期の実質GDP成長率は、前年同期比3.02%減となった。約7年ぶりのマイナス成長となった2022年10~12月期に続き、2四半期連続の前年割れを記録した。IT産業頼みの産業構造が、台湾経済の足を引っ張っている形だ。

さらに、国際社会で台湾有事が現実味を帯びて語られるようになる中、台湾経済の対中依存度の高さも不安材料になっている。2022年の台湾の輸出額のうち香港を含む中国向けは38.8%と高止まりしている。同年末時点の台湾の対外投資額累計額のうち中国向けは53.5%を占める。

© SOPA Images/LightRocket via Gett

電子機器を受託生産するEMS (Electronics Manufacturing Service) 企業の世界最大手であり鴻海精密工業=2021年3月30日

 

安保と経済の両立、台湾次期リーダーの課題も浮き彫りに

蔡英文政権は2016年の発足以来、対中依存度の低下を最重要政策に掲げ、東南アジアやインドなどとの経済交流を強化する「新南向政策」を進めてきた。蔡総統は2024年5月で2期8年間の任期を終えるが、対中依存度は政権スタート時に比べて微減にとどまっており、安全保障と経済運営を両立する難しさが浮き彫りになっている。

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