注目ポイント
台湾が豊かさで日本を超える日が近づいている。台湾は生活レベルの指標となる1人当たり名目GDP(国内総生産)で2022年、韓国を抜き、日本に肉薄した。半導体をはじめとするIT(情報技術)産業で世界を席巻し、さらなる躍進を遂げようとしている。土地は九州ほどの広さしかなく、人口も約2300万人と中規模で、資源にも恵まれない台湾が、なぜこれほど発展を続けているのか。その強みと課題に迫る。
1人当たりGDPで韓国追い越した台湾
日本経済新聞系のシンクタンク、日本経済研究センターは2022年12月、1人当たりGDPで2022年に台湾が、2023年に韓国が日本を抜くとする「アジア経済中期予測」を発表した。2021年12月の予測では、台湾が2028年、韓国が2027年に日本を超える見通しだったので、わずか1年でその時期を大幅に前倒ししたことになる。
実際には、国際通貨基金(IMF)が公表した2023年4月版のデータベースによると、2022年の日本の1人当たりGDPは3万3821ドルで、世界30位。32位の台湾(3万2643ドル)、33位の韓国(3万2250ドル)をかろうじて上回った。台湾の2021年の1人当たりGDPは3万3186ドルで、韓国(3万4997ドル)に及ばなかったが、2022年になって、ついに韓国を追い越した。
取り残される日本、アジア4小龍の核に台湾
日本は長年、「アジアで最も豊かな国」として地域の先頭を走ってきたが、1人当たりGDPは2007年にシンガポールに、2014年に香港に抜かれ、その後、差は開く一方だ。米ドルに換算して比較する1人当たりGDPの数値は時々の為替レートにも左右されるため、予測は難しいが、日本経済研究センターの分析のように、近いうちに日本が台湾と韓国に抜かれるとすれば、日本は豊かさの面で、「アジア4小龍」と呼ばれた4カ国・地域すべての後塵を拝することになる。
そのように目覚ましい成長を続けるアジア勢の中でも、近年、最も世界の注目を集めているのが台湾だ。
その訳は、世界における台湾のIT産業の存在感にある。半導体受託生産会社(ファウンドリー)でガリバー的な地位にある台湾積体電路製造(TSMC)の半導体受託生産の世界シェアは56.6%と半数を超え、他社を引き離す(2022年、台湾トレンドフォース調べ)。2022年12月期の売上高は2兆2639億台湾ドル(約10兆1000億円)に上り、日本の電機メーカーで最大のソニーグループの11兆1539億円(2023年3月期)に並ぶ。
しかも、技術力でも他の半導体メーカーを寄せ付けず、最先端の半導体で何とかTSMCと競えるのは韓国のサムスン電子くらいだ。ファウンドリー分野では、台湾の聯華電子(UMC)も7.0%のシェアを有し、台湾勢の独壇場となっている。

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台湾企業が不可欠な世界のIT産業
新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、世界の半導体需要が急速に高まり、TSMCなど台湾の半導体メーカーは受注をさばき切れない状態が続いた。台湾の半導体生産が停止すれば、世界経済は最大年間1兆ドル(約140兆円)規模の打撃を受けるとの試算もある。半導体が台湾経済をけん引する構図が際立ち、2022年の台湾の全輸出額のうち半導体の割合は33.4%と、ほぼ3分の1を占めた。