2023-07-16 ライフ

自然災害との共存を学ぶ ――防災の最前線はデータ分析 

© 国家災害防救科技センター提供

注目ポイント

2022年は穏やかな一年ではなかった。気候変動による極端現象が頻発し、世界各地でさまざまな災害が発生した。ハリケーン「イアン」はアメリカとブラジルを襲って1000億米ドルの損害をもたらした。夏にはヨーロッパが熱波に見舞われ、山火事や干ばつが起き、パキスタンでは百年に一度というレベルの大洪水が起きて国土の8分の1が冠水した。2023年の年初にはトルコとシリアで大地震が発生した。それより先には、スマトラ島沖地震(インド洋大津波)や日本の311東日本大震災があり、誰もがショックを受け、無力感を覚えたものだ。人間は大自然の力にはかなわないのである。

災害研究と防災推進においては、災害から学ぶことが常に重視されてきた。2001年にタンカーのアマルガス号から重油が漏れ出した事件では、墾丁国立公園内の生態に被害が及んだ。これをきっかけに、災害防救科技センターでは台湾周辺海域の船舶情報を掌握し、台風が接近した時には避難を求めるようにしている。また、2016年の寒波で40億元近い農業被害が出たことから、災害防救科技センターは農業委員会の委託を受け、気象局の情報から低温予報を出し、農家や漁業者が早めに対応できるようにしている。

オフラインの活動も進めている。国連は「仙台防災枠組2015-2030」の中で、各国は心身障碍者の減災需要を重視すべきだと強調している。災害防救科技センターの体系・社会経済組長の李香潔によると、同センターでは2020年から心身障碍者を招き、共同で防災万年カレンダーを設計した。身体や目の不自由な人にとって重要な事前準備、災害時の対応、災害後の復旧などの情報を提供している。これは2023年、国連がサポートするゼロプロジェクトから賞を受けた。

「現在私が最も強調しているのは減災と回避です。災害による死者や負傷者を最小限にとどめることです」と陳宏宇は言う。現在、災害情資ネットのアクセス数はのべ431万人に達している。災害が発生した時には、ネットやショートメッセージでリアルタイムの情報が全国民に提供される。情報が公開されることで、人々は自分が置かれた環境に関心を寄せるようになり、日頃から防災意識を持つことにもつながる。

気候変動による極端現象において台湾は「炭鉱のカナリア」のような存在で、他の地域より早く災害が発生する。彭啓明は、災害との共存を学ぶことが唯一の答えだと語る。

オープンデータ

彭啓明は台湾のオープンデータ連盟の会長も兼任しており、公的部門に対して多数のデータの公開を求めてきた。民間や学界の専門家がさまざまな視点からデータを分析できるようにすれば、イノベーションを通してデータの価値を高めることができるからだ。例えば国家科学委員会が立ち上げた「民生公共IoT」が挙げられる。全国の多数の場所に設置されているモニタリングカメラのデータを能動的に民間の使用に提供しているのである。「民間が政府のデータに接触してそれを拡散すれば、より高い効果が得られ、産業クラスターが形成できます」と言う。例えば、台湾の防災産業には、防災バッグや消火器、建設業などがあるが、そのほかにこれらのデータを分析してソフトとハードを統合した環境モニタリングシステムが開発されれば、極端現象による災害に、より有効に対応できるようになる。

彭啓明によると、昔から防災のためのデータ分析は行なわれてきたが、リアルタイムのものではなかった。現在はIoTや5Gなどの通信速度もますます速くなり、「データの掌握は昔とは比べものになりません」と言う。「データ量が拡充すると、そのマネジメントも新たな段階に入ります。データマネジメントによって人為的かつ不必要な判断ミスや誤差を減らすことができます。台湾は現在その段階へ進もうとしている状態で、データによるさらに精確な判断を目指しています」と言う。将来的には、人工知能による効率的なビッグデータ分析が行なわれるようになり、それが台湾の防災の強みになることだろう。

持続可能な未来を迎えるためには、自然災害に対して謙虚でなければならない。

災害との共存

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