注目ポイント
アジアなど欧州域外からスイスの大学に留学し、学位取得後も現地で働く人はまれだ。だが国内の深刻な労働力不足を受け、連邦議会では留学生の就労機会を拡大する改正法案が審議されている。
スイスでは、第三国出身者など留学生の統合の円滑化をめぐる議論が続けられてきた。
リベラル右派の急進民主党(FDP/PLR)所属のマルセル・ドブラー下院議員は2017年、連邦政府に外国人・統合法の改正を求める動議を提出。「最終的にスイスに利益をもたらさないのであれば、(公的資金による)留学生への学費助成は適切ではない」と主張した。
スイスにとって留学生は高くつく。エコノミー・スイスによると、大学生(学士・修士課程)1人あたりの学費は年間2万3千フラン(約370万円)、卒業までに計13万3千フランかかる。一方、スイス高等教育機関協議会(SHK/CSHE)によると、留学生1人あたりの学費は平均で年間1580フランだ。その差額は公費で賄われる。
スイス高等教育の学費
大半の州立大学および連邦工科大学2校における留学生の学費は、スイスの学生と同額か、若干上回る額だ。
留学生と国内学生の差が最も大きいのはザンクト・ガレン大学。学士課程(2学期制)学費は1学期あたり、国内学生は1229フランだが、留学生は1900フラン高い3129フランだ。
スイスイタリア語大学(ルガーノ大学、USI)では、学士課程1学期あたり、国内学生は2000フラン、留学生は1500フラン高い3500フランだ。
法改正を検討
ドブラー下院議員の動議を受け、連邦政府は外国人・統合法改正案を提出した。同案は特に、「学術的または経済的に重要性の高い」仕事を志望する修士・博士号の取得者を労働許可証の年間発給枠の対象外とする。
大半の政党が政府案を支持する一方、保守右派の国民党(SVP/UDC)は留学生の学費を全額自己負担に変えること提案する。
急進民主党のアンドレア・カローニ上院議員などは、労働許可証の発給枠は2019年以降定員割れが続いているので、制度自体に問題はないと指摘する。
立法手続きは進行中だ。法改正には上下両院の可決が必要となる。国民議会(下院)は既に3月に可決した。全州議会(上院)の国務委員会への再諮問は秋になる見通しだ。
それでも人気は衰えず
就職への壁は高いとはいえ、留学先としてはスイスは第三国出身の学生にとって依然として魅力が大きい。経済協力開発機構(OECD)によると、2020年の留学生比率でスイスは加盟国中5位、非英語圏ではルクセンブルクに次ぐ2位だった。
ララさんは「既に中国と米国で学んでいたので、欧州での経験を求めていた。スイスはEU非加盟だが密接な関係にあるため、(欧州への)入り口として最適だ」と話す。