注目ポイント
反社会的組織が葬儀業界を独占していた経緯から、一般的な花屋が葬儀と関わることが稀な台湾。脅しや実力行使で業界への新規参入が阻まれることもあり、老舗花屋は葬儀業界と関わらないのが暗黙の了解だという。
かつて台湾では、葬儀業界は反社会的組織が独占し、花屋として葬儀関係の仕事をしたくてもそう簡単に加わることはできなかった。近年は大手企業も参入し、多少は開かれつつあるものの、それでもなお反社会的組織が担っている部分は大きい。今回は知られざる台湾の葬儀業界と花屋との関係をご紹介したい。
「遺体を返さない」と脅されることも…
あらかじめ補足をすると、台湾の反社会的組織は日本のヤクザ、暴力団と異なり、クラブや夜の店などを経営する傍ら、お寺や葬儀屋、さらに花屋なども運営する“総合企業”として花業界では認知されている。だが、葬儀では今でも様々なトラブルが発生しているとよく耳にする。
見積額と異なる多額の葬儀費用を請求し、払わなければ遺体を返さないと遺族を脅す業者もあるようだ。故人を亡くした悲しみに暮れる中、悪質な請求に素直に応じてしまう遺族も多いという。もちろん優良な葬儀屋からすれば迷惑な存在でしかない。葬儀のプロであるならば、人の一生の最後の式典では、遺族の気持ちも考えて仕事をしてもらいたいものである。

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「葬儀だけは気をつけろ」という忠告
花屋として残念な気持ちはあるが、大抵の人は人生において花と触れ合う機会はそうそう多くない。お祝い事や人生の節目のイベントで受け取ったり、贈ったりすることがほとんどだろう。そのため長年営業を続けている花屋は、店売り以外に結婚式やイベント業界、あるいは政府や学校関連の案件を持っている場合が多い。お客さんがいなさそうに見える花屋でもなかなか潰れないのは、こういったB to Bの仕事を持っているからである。
だが、葬儀業界だけは全くの別物で、一般の花屋が参入することはほぼ不可能だ。私が台湾で花屋を開業しようと準備を進めていた頃、近所の老舗花屋の社長に相談したことがあった。その際、社長のアドバイスで最も記憶に残っているのは「葬儀だけは気をつけろ」という一言である。
普段は温厚で笑顔の多い優しい年配の社長は、葬儀の話の時だけ非常に険しい顔になった。社長によると、葬儀に参入しようとした花屋が反社会的組織から脅されたり潰されたりしたことがあり、今でも老舗の花屋は葬儀業界と関わらないのが暗黙の了解だという。外国人の私はそれほど気にしなくていいとも言われたが、今でもその忠告に従って、葬儀の案件を受ける際は事前に担当の葬儀屋に確認し、了解をもらってから注文を受けるようにしている。
思い返すと、私が日本で勤務していた花屋は店売りにも力を入れていたが、事業のメインは葬儀関連だった。日本は花屋が多く葬儀における競争も非常に激しいため、葬儀屋との関係を崩さないよう必死に関係を構築し、花屋の身でありながらご遺体を運んだり祭壇を作ったり、仕事終わりに担当者とパチンコや飲みに行くなど、本業以外の部分での負担もかなり大きかったが、台湾ではまた違った気苦労が多い。