注目ポイント
ロシアのメドベージェフ前大統領が、ウクライナでの核兵器使用を示唆し、あまつさえ広島、長崎への原爆投下にも言及した。被爆者を冒とくするかのような暴言に対し、広島選出の岸田首相をいただく日本政府をはじめ、広島、長崎両市は非難しながらも、抗議を見送っている。不当な発言を唯一の戦争被爆国である日本が黙認すれば、誤ったメッセージとなりかねないという危惧も生じている。
広島市は、プーチン大統領がウクライナ侵略を開始し核使用をほのめかす発言をした22年2月には、直ちに抗議電を送ったが、今回は一転、市長発言以外の行動を控えた。
やはりロシア侵攻直後のプーチン核発言には、広島同様、電報で抗議した長崎市も、今回は黙殺している。
ロシア相手の虚しさわかるが・・
外務省に取材してみると、政府レベルでも抗議、申し入れは行われていないという。
「メドベージェフ氏は対外的に強硬な主張をする人物。これまでも、日本だけでなく他国に対しても〝悪態〟をついている。無責任な発言にいちいちコメントするのはどうか」(欧州局ロシア課)というのが理由だ。
さすがに広島、長崎のくだりは看過できないと判断したようで、松野官房長官が7月6日午前の定例記者会見で日本政府としての見解を明らかにした。

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その官房長官コメントは「核の使用を示唆しているのは際めて憂慮すべきだ。ロシアのレトリックは危険であり受け入れられない」と非難しながらも、「唯一の被爆国として、各国と連携して日本の立場を訴えていく」という素っ気ない内容にとどまった。お題目だけ、聞くだけでもどかしくなるような空虚さだった。
常識が通用しないロシア指導者を相手にする虚しさに嫌気がさすのは理解できないこともないが、先方に対して何らの意思表示をしないというは、どうだろう。モノを言わなければ、不法な威嚇を黙認したと誤解され、悪宣伝に利用されることもあろう。
モノ言わぬは、暴言容認につながる
日本政府は、尖閣諸島における中国公船の常習的な領海侵犯に対して、その度ごとに厳重な抗議を行っている。
一度でも見送れば、尖閣は自国領という中国の主張を認めることになりかねず、悪宣伝に利用される恐れがあるからだ。

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唯一の戦争被爆国として核兵器の保有、使用に絶対反対するなら、また、核の威嚇、使用が絶対に許されないというなら、なぜ抗議を中断するのか。まして今回は、広島、長崎が名指しされているのだからなおさらだ。
「こういうことをすれば日本がまた煩い」と世界が考えるようになるまで、抗議を繰り返すべきではないか。
広島平和記念公園の原爆被爆者慰霊碑にはこう刻まれている。「安らかに眠ってください 過ちは繰り返しませぬから」と。
「過ちを犯したのは被爆国日本か」など議論があるこの表現に対して広島市は、「全世界の人々が犠牲者の冥福を祈り、核兵器使用という過ちを繰り返さないと誓う言葉。祈りと誓いの原点だ。多く人に理解してもらえるよう発信に努めていく」(ホームページ)と説明している。