注目ポイント
ティチーノ・ヤシ(シュロ)は市民や観光客に親しまれる南スイスのシンボルだが、生態系や環境への悪影響が懸念される侵略的外来種でもある。最近、気候変動がシュロや森林に及ぼす影響についての大規模な調査が行われた。
次にシュロが自然環境に及ぼす悪影響について説明したところ、好印象を持つ人の割合は全ての言語圏で減少した。だが庭にシュロの木を植えている人に限っては、悪影響を知っても好意的に捉える人の方がわずかに優勢だった。
取るべき対策については、広報キャンペーン、モニタリング、野生区域での駆除など、緩やかな介入が適切だとする意見が多く、公共スペースや個人宅での植生禁止などの強い介入は行き過ぎだと考える傾向があった。
WSLはこの調査結果を受けて、シュロ以外のヤシ類でティチーノを象徴できる存在を(予算が許す範囲で)選定する方針だ。今後の気候変動も考慮し、侵略の恐れのないヤシ類のリストを作成している。
ティチーノの森を悩ます4本足
シュロの研究は、気候変動への適応に関するスイス連邦環境省環境局(BAFU/OFEV)の大規模な試験的プログラムの一環として行われている。だが、WSLでシュロの研究を行うボリス・ペツァッティ研究員によれば、気候変動が問題になる以前から、ティチーノの森はある脅威に悩まされている。元凶は森にすむ 4本足のあの動物だ。
ロカルノのシュロ密集地の火事現場を訪れたとき、WSLのフェール氏が、火事で被害を受けなかった若木の痛んだ葉を指してこう説明した。「これは明らかに食べられた跡だ。食べたのはおそらく鹿だ」
鹿などの「森のハンター」は、その土地の在来植物を好んで食す。つまり鹿が外来種のシュロを食べ始めたということは、この地域ではシュロが占める割合が非常に高いことを意味する。そして十中八九、本来のティチーノの森林の再生機能は停滞、または停止している。
この現象からできる考察は以下の2点。①鹿の餌になりにくいことが外来種の繁殖に有利に働いていること、②森林の天然更新がうまくいかず、再生されなくなっていることだ。
ペツァッティ氏は「森林の管理当局が天然更新をうまく進められていたなら、気候変動への適応に関する課題の半分は既に解決していたはずだ」と言う。
つまり干ばつの頻度が増せば、新たな環境に適応した植物が大きく根を張り、森全体がより強靭(きょうじん)に再生する。だがそれが鹿に食べられてしまっては、再生の芽も同時に摘まれてしまうということだ。
この記事は「SWI swissinfo.ch 日本語版」の許可を得て掲載しております。