注目ポイント
ティチーノ・ヤシ(シュロ)は市民や観光客に親しまれる南スイスのシンボルだが、生態系や環境への悪影響が懸念される侵略的外来種でもある。最近、気候変動がシュロや森林に及ぼす影響についての大規模な調査が行われた。
だがWSLの研究によれば、日の当たらない森林内では種子を出す大きさにまで成長するには何年もかかる上、わずかな種子しか付けない。「要するに、今後数十年間のシュロの繁殖状況については、住宅地から離れるほど遅く広がり、広がり方は不規則となり、シュロ密集地を作る可能性も低くなると予想される」という。
一方で、森林地域でもシュロがある程度広がる可能性は否定できない。特に栗林のように既に別の問題を抱えている森林に、シュロが入り込む可能性はある。栗の木はローマ時代から同地域に定着し、土壌に根を張るのと同じく、文化にも深く根を下ろしている。だが現在は、クリ胴枯病、タマバチ、インキ病、干ばつに加え、メンテナンス不足や森にすむハンター(インフォボックス参照)などの様々な要因が重なり、弱体化が進んでいる。
侵略的だが好感度大
今やシュロは栗の木と並びティチーノを象徴する樹木だが、その繁殖が環境に馴染まず悪影響を及ぼす可能性が懸念されている。例えば、生物多様性を育む氾濫原(はんらんげん)に侵食し多様性を脅かす可能性がある。また斜面に繁殖しても、シュロの根は細くて比較的まばらにしか張らないため、地滑りを防ぐ役目をほとんど果たせない。
このため氾濫原などの生態学的に価値のある場所からはシュロを駆逐し、地滑りを防ぐ保護林ではシュロの個体数を減らすべきだと研究者らは提言する。
そこでWSLは短時間・低コストの駆除方法を開発した。既に成長した背の高いものは、地面ぎりぎりのところでチェーンソーで伐採すればよい。若いシュロは地面から生えている芽を刈り取った後、更にドリルで根元から粉砕する必要がある。この方法は実際に導入され、ティチーノ州も推奨する。
一方、シュロの負の影響を減らすだけでなく、ティチーノ・ヤシとしての社会文化的な側面とも向き合う必要がある。
侵略的外来種の駆除などの対策は、市民にいつもすんなりと受け入れられるわけではない。特にティチーノ州を象徴する「カリスマ的な」存在のシュロのようなケースでは、社会的な側面へのより慎重な配慮が必要だ。同州の観光業者は何十年もの間、シュロの持つエキゾチックな雰囲気を、特に北部からの観光客の誘引に利用してきた。シュロの絵やデザインは、売店に並ぶ絵葉書、キャンプ場、ホテルなど、ティチーノ州の至る場所に描かれている。
研究の一環で行った、スイス全国を対象にしたアンケートでは、ほとんどの参加者がシュロを「休暇」、「暖かい」、「エキゾチック」、「美しい」などの好意的な言葉で表現した。一方、「侵略的」というネガティブな表現はイタリア語圏のみに見られた。