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ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援で、米国が殺傷能力の高いクラスター(集束)弾の供与を決めたことについて、英国やスペインなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国の一部は、使用や供与自体に反対する立場を表明。NATO内の温度差が浮き彫りになっている。英BBCはゼレンスキー大統領がクラスター弾を求める理由を解説した。
バイデン米政権は7日、ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍を支援するため、殺傷能力が高いクラスター(集束)弾を供与すると発表した。非人道性が強い兵器だが、難航が指摘されるウクライナの反転攻勢を後押しするために必要だと判断し、慎重だった姿勢を転換した。
民間人を無差別に殺傷する危険があるクラスター弾は、オスロ条約で使用や生産が禁止されている。110を超える国が条約に賛同しているが、米国やロシア、ウクライナは加盟していない。
クラスター弾とは、容器となる大型の弾体の中に複数の子弾を搭載した爆弾だ。飛び散った小型爆弾は着弾と共に爆発する設計だが、相当数は不発で終わる。特に、濡れた地面や柔らかい地面に着弾した場合、不発となることがある。不発として残った小型爆弾は後日、拾ったり踏んだりした際に爆発し、死傷させる危険がある。
英BBCは、ウクライナがなぜ、国際条約で使用など禁止されているクラスター弾を要求しているのか、こう解説する。大きな理由は砲弾不足の深刻化だ。「ロシア軍と同様、ウクライナ軍も非常に速いペースで砲弾を消費しており、西側の同盟諸国による補充が間に合わないからだ」と指摘する。
「ウクライナ南部や東部の戦場では、両軍ともほとんど前進することなく膠着(こうちゃく)状態が続いている。そこでは、砲弾が最も重要な武器なのだ。ロシア軍は全長1000キロに及ぶ前線のいたるところに塹壕や拠点を掘り、徹底的に守りを固めている。ウクライナ軍は現在、そこからロシア勢を追い出さなくてはならないという、大変な作業に取り組んでいる」と説明。
そんな状況下、十分な砲弾が足りていないことから、ウクライナは前線の随所に掘られた塹壕の歩兵を狙い撃ちにするため、最も有効な弾薬であるクラスター弾の供与を米国に求めたのだ。
BBCによると、クラスター弾は塹壕や要塞を拠点としている兵に対して、強烈な攻撃効果を発揮する。この爆弾がいったん落下すると、その一帯から不発弾を徹底的に撤去しない限り、その周辺での移動は大きな危険を伴い、事実上不可能となる。
クラスター弾供与の決定は米政府にとっても決して簡単ではなかった。与党・民主党内からも、多くの人権活動家からも、厳しく非難されている。米民主党のティム・ケイン上院議員とバーバラ・リー下院議員は9日、クラスター弾供与の決定に懸念を表明。BBCは「クラスター弾の供与をめぐる議論は、少なくとも半年前から続いていたものだ」と付け加えた。