注目ポイント
日本統治時代の台湾を襲った空襲、戦後の二・二八事件、言論の自由が制限された白色テロ時代――台湾のインディゲームには、日本のゲームシーンでは見かけない深刻なテーマを扱ったゲームが少なくない。なぜこうしたゲームが生み出されるのか、背景を探った。
工学と科学技術が専門のオランダ・アイントホーフェン工科大学などが東日本大震災の被災の記憶の伝承を目的に共同開発した、福島県の仮設住宅を仮想体験するVR(仮想現実)ゲーム(ACM SIGCHIのYouTubeチャンネルより)
「2010年代になると、ゲーム以外のより広い分野にゲームの技術を活用しようという動きが出てきた。エンターテインメントが主目的のゲームに比べて市場規模はまだ小さいが、教育との親和性が高く、可能性を見出している国・地域は多い。台湾のゲームクリエイターの間でも、歴史的な教育に活用の糸口を見出しているのかもしれない」と加藤氏は推察する。
インディゲームを取り巻く市場の変化も
少人数でゲーム開発を行うインディペンデントなゲームデベロッパーがマネタイズできる仕組みが整ってきたことも、多様なテーマのゲームの台頭を後押ししている。ゲームの開発工程を大幅に削減できるUnityやUnreal Engineなどのゲームエンジン(ゲーム開発プラットフォーム)が登場し、スマートフォンのアプリゲームや、莫大な開発費をかけたAAAタイトルからインディまでを扱うPC用ゲームの配信プラットフォームが整備されたことは、ゲーム業界への参入のハードルを押し下げた。
インディペンデントであれば大手ゲーム会社がコンプラ的に手を出しにくいニッチなテーマも扱いやすく、ゲームクリエイターの作家性や思想を反映しやすい。「デベロッパーがパブリッシャー(販売元)にもなれること。また、インディゲームが得意なパブリッシャーも登場したことで、魅力的なインディゲームがより広くアピールされるようになってきた」(加藤氏)
台湾人の間でも忘れられつつある第二次世界大戦末期の台北を襲った米軍の大空襲をテーマにした「台北大空襲」。同名のボードゲームが原作で、日本統治時代の台湾に生まれた「林清子」と一匹の台湾犬を主人公に、空襲で破壊された台北でサバイバルする方法を探す(Taiwan Mizo GamesのYouTubeチャンネルより)
また、日本と比べてゲームの市場規模が小さい台湾において、ゲームデベロッパーたちは「常にグローバル展開を見据えている」と加藤氏。台湾・香港・マカオなどの繁体字圏だけをマーケットとして見るのではなく、簡体字、英語、日本語などへの翻訳も行うケースが多い。「深刻なテーマを扱うゲームデベロッパーには、世界に向けて自分たちの歴史を正しく知ってほしいという想いが根底にあるのではないか。その想いの発信の場として、世界市場を見据えたゲームというプラットフォームを選ぶのは、台湾のゲームデベロッパーにとって自然な選択だろう」と話す。