2023-07-08 ライフ

「台湾人の視点を世界に知ってもらう」歴史と向き合い、想いを発信する台湾インディゲームの今

© PC版ゲーム「台北大空襲」(Raid on Taihoku)

注目ポイント

日本統治時代の台湾を襲った空襲、戦後の二・二八事件、言論の自由が制限された白色テロ時代――台湾のインディゲームには、日本のゲームシーンでは見かけない深刻なテーマを扱ったゲームが少なくない。なぜこうしたゲームが生み出されるのか、背景を探った。

映画やネットフリックスでドラマ化されて話題を呼んだ「返校」が、同名のゲームを原作にしているのは知られたところだろう。台湾のゲームデベロッパー・Red Candle Games(赤燭遊戯)が2017年1月にリリースしたPC用ゲーム「返校-DETENTION-」は、戒厳令下で思想や言論の弾圧が行われ、市民の逮捕・投獄が横行した白色テロ時代の台湾の高校が舞台のホラーアドベンチャーだ。

台湾の土着文化や風習を反映し、ホラーゲームとしての恐怖演出はもちろん、当時の人々が感じていた政治的緊張感や不安感を追体験させる同作は、発売後、PC用ゲーム配信プラットフォームのSteamで一時、売上ランキング世界3位を記録。家庭用ゲーム機のPS4やNintendo Switchにも移植され、現在も多言語でプレイできる。

1960年代の台湾の架空の高校を舞台にした「返校-Detention-」の予告編。Red Candle Gamesは次作「還願」に登場する黄色い御札の朱印の文字が「くまのプーさん習近平」となっているとして、中国のネット上で批判が集まったことでも話題になった(Red Candle GamesのYouTubeチャンネルより)

 

台湾ではこの「返校」のように、第二次世界大戦や戦後の混乱期を題材にしたインディゲームが制作されることが珍しくない。しかもその多くが、プレイヤーをハラハラ、ドキドキさせるエンターテインメントで終わらせず、戦争や迫害の悲惨さを人々に意識させる内容になっている。

 

日本と似て非なる台湾のゲームシーン

ゲームニュースメディア「SQOOL.NET」を主宰し、台湾のゲームシーンに詳しい加藤賢治氏によると、台湾はTwitchなどのゲーム配信視聴時間ランキングが世界的に上位、人口比率から見れば日本に劣らずゲームファンが多く、「いわゆる“萌え絵”やアニメ調の絵柄のゲームも人気で、日本と嗜好が似ているところは多い」という。

2015年3月にErotes Studioが制作した「雨港基隆」。登場人物の見た目はかわいらしいが、中華民国政権下で民衆が弾圧された二・二八事件がテーマ。同デベロッパーは1998年にインドネシアで発生した華僑らへの虐殺(930事件)や、1949年に澎湖島で起きた軍事冤罪事件をテーマにしたゲームも制作している(画像はErotes Studio公式サイトより引用)

ただ、日本と異なるのが、前述のような深刻なテーマを扱うゲームが出てくることだ。つい先日も、第二次世界大戦末期の台北を襲った米軍の大空襲を題材にしたPC用ゲーム「台北大空襲」が発売され、その異色な内容が一部のゲームファンや台湾通の間で話題に上った。

こうした動きについて、加藤氏がまず指摘したのが「シリアスゲーム」との関連だ。念のため補足をすると、シリアスゲームとはゲームのUI(ユーザーインターフェース)やエンターテインメント性を社会の諸問題の解決のために応用する試みで、2000年代に欧米を中心に広がった。日本ではニンテンドーDSの「脳トレ(脳を鍛える大人のDSトレーニング)」ブームによって認知されたが、教育、福祉、医療をはじめ、社内研修や職能トレーニングにも活用され、オランダが先進国とされている。

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