2023-07-06 ライフ

鬼才ホドロフスキーが明かすマルセイユ版タロット復刻の物語

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注目ポイント

鬼才アレハンドロ・ホドロフスキー氏がスイス・アスコーナで今春開かれた文学祭に登壇し、多くの聴衆を惹きつけた。作家や映画監督など多彩な顔を持つ同氏は、タロット研究でも多くの「信者」を抱える。swissinfo.chとのインタビューで、マルセイユ版タロットの復刻にのめり込むまでの経緯を明かした。

開催地となった南スイスのモンテ・ヴェリータ(真実の山)は、アレハンドロ・ホドロフスキー氏を迎える絶好の舞台に思われた。ここは今から120年前、最初の「オルタナティブ・コミュニティ」が生まれた聖地だ。19世紀末から20世紀初頭にかけ、自然主義や菜食主義、平和主義を唱える芸術家や作家、思想家らが理想郷を求めて欧州各地からこの地へ集まった。その文化拠点として1929年に作られた建物には豪華な庭園やバンガローがあり、当時の芸術的なオーラが随所に感じられる。バウハウス様式の本館は近年改装され、今は高級ホテル兼レストランとして利用されている。

だがチリとフランスの国籍を持つホドロフスキー氏は、同氏が知るスイスとモンテ・ヴェリータは全く別物だと言う。「スイスは美しい国だが、誤解を恐れずに言えば、スイス人は現実主義という問題がある。これは批判ではなく、どんな場所にもその土地の良さがあるということだ。スイスは『el amor loco』(狂気の愛)、すなわち芸術的狂気や夢を生きる場所ではない。つまり、ここにはシュールレアリスムを育む空気がない」と語る。

そして「スイス人の問題は、経済的現実という重荷を背負っていることだ。何かを確立するには、ある程度は絶対的な安全が必要だが、人生とは絶対の安全を求める旅ではない。人生は、私たちが冒すリスクが織りなすものだ」と続けた。

一方、ホドロフスキー氏を名誉ゲストに招いた主催者の狙いは的中した。3月30日~4月2日に開催した「モンテ・ヴェリータ文学祭」の最終日、同氏の講演は予想をはるかに上回る数百人を集客。特に注目すべきは、フェスティバルで最高齢のゲストが、最も若い聴衆を集めたことだ。白髪の観客が大半だったそれまでの講演とは対照的だった。

世代を超えたファン層

多彩な顔を持つホドロフスキー氏と同じく、そのファン層も多様だ。サイケデリックで密教的、かつ野蛮な西部劇「エル・トポ」(1970年)や「ホーリー・マウンテン」(1973年)など、1970年代に製作・絶賛された彼の「とんでもない」映画は、アートシアター系の映画鑑賞者や、メインストリームと一線を画すカウンターカルチャーの信奉者にとってカルト映画となった。

SF小説「デューン」の映画化には失敗したものの、その経緯を収めたドキュメンタリー「ホドロフスキーのDune」は人気を博した。ビジュアルを手掛けたメビウス(本名ジャン・ジロー、1938~2012)とH・R・ギーガー(1940~2014)の未来的なデザインは、その後間もなく世に送り出される映画「スター・ウォーズ」や「エイリアン」など、数多くのSF映画の鋳型となった。もちろん、後にデヴィッド・リンチ監督(1984年)とドニ・ビルヌーヴ監督(2021年)が映画化した「デューン/砂の惑星」のベースにもなっている。

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