注目ポイント
スイスで18日、9カ月ぶりに国民投票が行われた。多国籍企業の最低法人税率、環境保護法、COVID-19法の3つの案件は、いずれも可決された。
多国籍企業の最低法人税率
多国籍企業の最低法人税率の下限を一律15%にするという国際ルールに従うための憲法改正案は、賛成78.5%という圧倒的大差で可決された。すべての州で賛成が過半数を獲得した。
2008年の金融危機後、スイス連邦政府は経済の崩壊を防ぐために莫大な財源を必要とした。そんな中、グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾンなどの巨大IT企業を筆頭とする多国籍企業が、利益を合法的にスイスなどの「タックスヘイブン(租税回避地)」に移転し、法人税の節税や回避を行うことはもはや容認されなくなった。
経済協力開発機構(OECD)は世界規模での税の公平性確保を目指し、長い交渉活動の末、年間売上高が7億5千万ユーロ(約1070億2千万円)を超える多国籍企業には法人税率の下限を一律15%にするという国際ルールの合意にこぎつけた。
頭を抱えたのはルクセンブルク、アイルランド、スイスといった国々だ。これらの国々は税率を低く設定してきたおかげで、長きにわたり大手多国籍企業にとって魅力的な場所とされてきた。しかしOECDの決定を無視すれば報復措置を受ける可能性もあったため、一律15%の国際ルールを国内に適用せざるを得なくなった。
スイスの場合、法人税は州の管轄だ。OECDルールを適用するために憲法を改正し、15%との差分を連邦が「補完税」として徴収する。連邦議会による憲法改正案は、どんなに小さな修正であっても国民の意見を問う必要がある。
連邦政府と連邦議会及び各州は、今回の憲法改正案を強く支持していた。最低税率導入が不可避ならば、せめて税収基盤は国内にとどめるべきとの観点からだ。
唯一、反対を表明したのは大企業への課税強化に取り組んできた左派勢力の社会民主党(SP/PS)だ。ただ、同党の不満は課税そのものではなく、増収の配分比率(75%を州、25%を連邦政府に配分)にあった。同党は連邦政府への配分比率を5割に引き上げることで、全国民が増収の恩恵を受けやすくなると訴えていた。
今回の可決を受け、新たな競争が始まることに疑いは無い。経済連合エコノミースイスのモニカ・リュール会長は、スイスは企業誘致の面で激しい国際競争にさらされることになると指摘。スイス労働組合連合(SGB/USS)のチーフエコノミスト、ダニエル・ランパート氏は、余分な税収の一部が「普通の人々」に届くことを依然として期待していると話した。
唯一反対を表明していた社会民主党(SP/PS)のファビアン・モリーナ国民議会(下院)議員は、ここまでの圧倒的大差による可決は予想していなかったが、同党の「明確な敗北」だと述べた。
連邦財務省は、改革による増収効果は10億〜25億フラン(約1450億7千万〜3622億8千万円)との概算を公表している。