2023-07-05 政治・国際

私も中国でスパイに疑われた!改正「反スパイ法」は果たして習近平政権の基盤を強化するか

© 天安門広場にある監視用カメラ=2019年9月、北京市内

注目ポイント

中国では今月1日、スパイ行為の対象を広げた改正「反スパイ法」が施行され、日本では中国と接点を持つ幅広い層に警戒感が広がっている。当局が恣意的な判断で「スパイ行為」を認定する恐れがあり、中国への旅行・出張をためらう声も聞こえる。経済成長よりも政治的安定を優先せざるを得ない習近平政権の特殊性を露呈した形といえそうだ。実際に中国で取材中、スパイ行為を疑われ、摘発されたことのある筆者が改正「反スパイ法」が何を中国にもたらすのかを考察してみた。

今回の改正によって「スパイ行為」の範囲が広げられ、「国家機密」だけでなく「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料、物品」を取り扱う行為が摘発の対象となった。

ただ「国家の安全」とは何なのか明確な定義は示されておらず、摘発の対象も際限なく広がる。当局から「北朝鮮に関連した機密情報をやり取りした」という拘束理由が漏れ伝わることはあるが、その多くは公開情報に過ぎず、逆にいえば、「北朝鮮関連の機密情報」は「公表しても差し支えのない口実」と考えることもできる。

ともかく、今回の改正によって、当事者の自覚がないまま「スパイ」と認定されてしまい、拘束され、有罪とされる危険性がさらに高くなったわけだ。

さらに今回、中国国民に対しても、スパイ摘発への協力を義務化し、密告を奨励するようになった。まさに中国が北朝鮮ばりの「相互監視社会」への第一歩を進めたといえる。

ギニア大統領の歓迎式に臨む中国の習近平国家主席=2016年11月3日、筆者撮影

習近平主席は経済成長よりも政治的な安全を重視しているといわれる。習主席は70歳を過ぎた今も、慣例を破って最高指導者として君臨し、異例の長期政権を目指している。一方、そのプロセスにおいて激しい権力闘争を繰り広げてきたため、自身の身の安全を損なったり政権基盤を揺るがしたりしかねない中国内外の動きは徹底して排除する姿勢を示している。

この過程において、習近平政権が最も警戒しているのが、自由や民主主義、人権、法の支配という西側社会の価値観だ。インターネットやSNSによって、西側の価値観や中国共産党に不都合な情報が国内に浸透し、習近平政権の基盤を揺るがすような事態に陥らないか危惧している。そのためにも、社会の安定を損なうような外部情報は制御・遮断しておきたいところだ。

© Getty Images

天安門広場で監視用カメラを調整する作業員=2007年、北京市内

中国は今、世界第2の経済大国となり、その存在は世界経済には欠かせない。中国との経済的結びつきを抜きにして存続できないと考える日本や欧米企業も少なくない。ただ、そうした企業が「中国での安全上のリスク」を理由に、中国への依存度を徐々に低減し、人の往来も投資も減らしていく方向に舵を切れば、中国経済にとって決して小さなダメージではないはずだ。経済成長が減速すれば、人民の中国共産党への支持も落ち、その結果、習近平政権への忠誠心も低下することになる。

長期的にみれば、権力基盤強化のために取った措置が、逆にその基盤を揺るがしかねない。習近平主席の頭にはこんな状況もよぎっているのではないだろうか。

 

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