注目ポイント
スイスでLGBTQIコミュニティの権利を守る政策が進む一方で、こうした性的マイノリティの人たちへの威かく行為やヘイトクライム(憎悪犯罪)が急増している。その矛先は学校や図書館にも向けられた。
5月11日、チューリヒ市郊外にある自治体シュテーファが、公立中学校で4日後に予定していた「ジェンダーデー」の開催を急きょ中止すると発表した。
自治体側はその後の声明で、政治家や活動家らがこのイベントについてツイートし、それがきっかけで学校職員らが脅されたと説明。安全を確保するために中止せざるを得なかったとした。
自治体が名指しで批判したのが保守系右派・国民党のアンドレアス・グラルナー議員だ(この声明は16日時点でウェブサイトから削除されている)。グラルナー氏は挑発的な政治的発言で知られ、学校が生徒宛てに配ったジェンダーデーの通知書の画像をツイッター上に投稿。参加が強制であることに抗議し、学校管理責任者の解任を暗に訴えた。
自治体は、ジェンダーデーは決して若者に特定の意見を押し付けるものではないと説明。「社会的な役割、ステレオタイプ、セクシュアリティに関してオープンに交流し、対話してもらうこと」が目的で、ドイツ語圏の州が採用する教育計画他のサイトへに沿ったテーマだという。
この上で、イベントを中止に追い込んだグラルナー氏らの行為は「暴挙だ」と非難した。
こうした事態はスイスではあまり例がなく、メディアで大きく報じられた。だが、LGBTQIを巡る騒動はこれで終わらなかった。その翌週、チューリヒ市北部の図書館で予定されていた子供向けの本の朗読会がメディアを再び騒がせた。その理由は、本を朗読するのが女装パフォーマーのドラァグ・クイーンだったからだ。

© PBZ.ch
右派の活動家らがソーシャルメディア上で抗議活動すると予告していたため、当日は警察の警戒下でイベントが行われる事態に発展した。
当日は目立ったトラブルこそなかったが、これら一連の騒動は、スイスの反ジェンダー運動が保守・右派的な感情の新たな吹き溜まりとなり得る可能性を初めて浮き彫りにした。
抗議活動の参加者の中には「Freiheitstrychler(自由の鐘を鳴らす者たち)」と呼ばれるグループの名前もあった。スイスの英雄ヴィルヘルム・テルの格好をして、カウベルを持ち、ひげを生やした男性たちで作る団体だ。この団体は新型コロナウイルスのパンデミック時、政府の感染対策に反対するデモ活動を展開したことで注目を浴びた。
LGBTQI団体はこうした右派の行動を、10月に行われる4年に一度の総選挙に向けた政治パフォーマンスとみる。事実、国民党は選挙に向けてジェンダー推進政策に反対する姿勢を打ち出しており、反LGBTを推し進める保守・米共和党の政策を明らかに模倣している。
LGBTQIとは?
LGBTQIは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、トランスセクシュアル、クィア、インターセックスの頭文字を取った略称。