注目ポイント
北朝鮮のエリート層が近年、脱北を選ぶ理由は、経済的な要因だけでなく、体制や指導者への忠誠心に対する質的な変化にもある。また、脱北した人々は、北朝鮮の現状に対して警鐘を鳴らし、人権問題が北朝鮮のアキレス腱であることを指摘している。

(ソウル中央社)脱北を選ぶエリート層が近年増えている。それは経済的要因が脱北の唯一の動機ではなくなったことを意味する。そしてその背景にあるのは、人々の北朝鮮の体制や指導者に対する忠誠心の質的な変化だ。同時に金正恩(キム・ジョンウン)政権に対する警鐘とも言える。
▽元外交官「北朝鮮には希望も未来もない」
「脱北の理由はこれまで生死に関わるものが多かったが、今はもっと多様になっている。最も重要なのは、北朝鮮には希望も未来もないということだ」。こう語るのは、2003年に脱北した北朝鮮の元外交官、金光進(キム・グァンジン)さんだ。
欧州などで近年、脱北したり脱北を試みたりする外交官が散見されるようになった。「既得権益者」とされる外交官のような生活に困らないエリート層の相次ぐ脱北は、韓国政府の注意を引いた。
エリート層の脱北は、北朝鮮の体制に問題があることを示すと光進さん。コロナ禍で国境が封鎖され、人々の生活も立ち行かなくなる中、政府はミサイルの発射など挑発的な行為を続けた。
「海外に7~8年住んでいれば分かりますよ。帰れば家族と監獄の中で一生を過ごすようなものだって」。多くの人が北朝鮮を離れるかと悩んでいるはずだと光進さんは推測する。

▽身分失う恐怖 脱北して得た生活
脱北して10年がたつという金智英(キム・ジヨン)さん。対北放送を行う韓国の民間団体「自由北朝鮮放送」の局長を務める。「政権中枢に近い家柄ではなかったけど、ある程度の身分があり比較的裕福な家だった」。両親は忠誠心の厚い党員だったという。
その身分を失ったらどうなるのか。智英さんにとって脱北は恐ろしいことに感じられた。だが、韓国に来て生活の質の差を思い知らされた。「北朝鮮は比べものにならない」。北朝鮮では韓国はひどい場所だと洗脳されてきた。「申し訳ないと思うし、今は北朝鮮の人を哀れに思う。この事実を一生知ることがない人はきっと多いから」
政権の人々の思想に対するコントロールは強度を増している。しかしそれは、国民の忠誠心に政権が不安を抱いていることの証明でもある。「法的な制限を厳しくすればするほど、人々の不満は増すだけ」と智英さんは語る。
▽人権問題は「北朝鮮のアキレス腱」
金正恩氏は北朝鮮が「正常な国家」であるとのイメージを確立することに努めてきた。だが智英さんは、北朝鮮では人権、自身の権利というものを実感したことがないと話す。「言論の自由、居住移転の自由、選挙の自由、信教の自由などほとんど知りませんでした」