2023-06-28 政治・国際

ポスト「天安門世代」の覚醒―習近平時代から脱出する若者たち―【大熊雄一郎の眼力】

© 天安門事件から34年。追悼集会に参加した中国や香港出身の若者ら=2023年6月4日、東京・新宿駅南口前(大熊雄一郎撮影)

注目ポイント

1989年に中国の民主化を求めた人々らが武力弾圧された天安門事件から34年を迎えた6月4日、JR新宿駅南口(東京都新宿区)では犠牲者を追悼するイベントが開かれた。日本での集会はこれまで、事件当時の関係者が主導してきたが、今年は事件より後に生まれた中国人の若者が主催した。中国では天安門事件について語り継ぐことは許されず、その記憶は風化が進む。だが習近平指導部の強権的な統治に反発する若者たちの間で、30年余り前に政治改革を求め立ち上がった当時の学生たちへの共感が広がり始めている。

女性は中国内で非政府組織(NGO)の活動に携わっていた。習指導部は社会的弱者に寄り添うNGOが、反体制の温床になると見なして取り締まり対象にしている。女性はNGOの活動家が理不尽に拘束される現状に嫌気が差し、祖国を捨てるつもりで来日した。

女性に追悼集会に関わる理由を聞くと、34年前に民主化運動に参加した無名の学生がつぶやいた一言を口にした。「It’s my duty」(これは私の義務です)

天安門事件から34年。追悼集会に参加した中国や香港出身の若者ら=2023年6月4日、東京・新宿駅南口前(TNLJAPAN)


 

家父長制への反攻

白紙運動をきっかけに海外で広がる中国出身の若者たちの反体制運動には、天安門事件時の民主化要求運動と大きく異なる特徴が二つある。

一つは、1989年の運動に参加した若者たちの親は、毛沢東時代を生き、「毛主席万歳」と叫んだ世代だったのに対し、現在の運動の若者たちの親は、天安門事件が起きた開放的な80年代を生きた世代であることだ。追悼集会の参加者には、親が天安門事件に関わったという若者もいた。

もう一つは、性的少数者(LGBTQ)の権利擁護を訴える人々が主力になっている点だ。昨年11月に上海の白紙運動に参加して一時拘束された黄意誠(27)=ドイツに事実上亡命=は「デモの先頭に立った人の大多数は女性だった」と証言する。

新宿駅の追悼集会では、天安門事件当時の学生リーダーだった王丹を巡るセクハラ疑惑を非難するポスターも掲げられていた。黄氏は「中国共産党の統治モデルは家父長制の特徴があり、女性は最も抑圧されているグループだ。そうした構図を打破しようとする女性たちが運動の大きな原動力になっている」と指摘した。

天安門事件から34年。追悼集会に参加した中国や香港出身の若者ら=2023年6月4日、東京・新宿駅南口前(TNLJAPAN)

全体主義が恐れること

習指導部は国民の横のつながりを極端に恐れる。この10年間で、個人が自由な意思や思想、哲学を持ち、意見を公に(私的な場でも)発信する機会を制限し、そうした人たちが集まるプラットフォームを奪った。コミュニティを解体した上で党のイデオロギーや党に都合の良いストーリーを提供する。党の世界観を無批判に受け入れる人たちにとっては、社会はユートピアとなり、抵抗する人たちにとっては息苦しいものとなる。

習時代から脱出した若者たちが取り組み始めたのは、解体された個人を再びつなげる試みだ。新宿の追悼集会に参加した20代の中国人女性は「まず東京で議論の場をつくりたい。それが公民社会の第一歩になる」と語った。

覚醒した若者たちは、全体主義が最も恐れることに気付き始めている。それは、思考すること、他者の痛みに関心を持ち続けること―。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい