2023-06-29 政治・国際

台湾は「盟機」に空襲された!? 制作者が語るゲーム『台北大空襲』誕生の舞台裏 

© PC版ゲーム「台北大空襲」(Raid on Taihoku)

注目ポイント

米バルブ・コーポレーション運営のSteamからPCゲーム『台北大空襲』(Raid on Taihoku)が今年2月に日本でも配信され、ゲームファンのみならず台湾通や歴史マニアらの間などでも話題となった。TNL JP編集部では、この異色のゲームを生み出したTaiwan Mizo Games(迷走工作坊)創設者、張少濂氏とファンツースタジオ(Fun2 Studio)の潘昱恒氏にインタビューした。ボードゲームからPC版まで台湾と日本で注目される『台北大空襲』。その制作の裏に秘められた思いとは…。

空襲で炎に包まれる台湾総督府(現総統府)とタイトル=PC版ゲーム「台北大空襲」より(制作者提供)

主人公は女学校生と一匹のイヌ

『台北大空襲』は2017年に台湾で誕生したボードゲーム。日本統治時代の台湾・台北が舞台で、「林清子」という女学校の生徒が主人公だ。

設定、ストーリーについて張少濂氏は「戦争が終わるまで、主人公は家族と一緒に生き残らなければならないという内容。家族の中にひとりでも犠牲者が出れば失敗、というサバイバルゲームだ」と説明する。

一方、今年日本でも配信が始まったSteamのPC版ゲームは、このボードゲーム版の設定の一部を引き継いでアレンジされた。

ある日、林清子が空襲の中で目覚めると、自分がケガをしていることに気づき、警察官から両親が空襲で亡くなったと告げられる場面から始まる。清子は記憶を失っており、一匹のイヌとともに空襲の中で危険を避けつつ、記憶を取り戻すアイテムなどを集めて奔走する、という内容だ。

空襲で焼け野原となった台北市街=PC版ゲーム「台北大空襲」より(制作者提供)

 

埋もれた歴史をゲームで追体験

「プレイヤーにはスリリングなサバイバルゲームを楽しんでもらいつつ、プレイのなかで台北大空襲を追体験し、埋もれた歴史の中に身を置く感動も体験してもらいたかった」と張少濂氏。

「私の祖父は民国10年、つまり大正10(1921)年生まれでした。祖父は激動の台湾の近現代史の体験者のひとりとして、生前は幼い私に対し、台湾は米軍から空襲されたことがあるんだよ、とよく語ってくれた。私が『台北大空襲』というゲームを生み出したのは、台湾人の記憶から薄れかけている歴史をモチーフにすれば、市場においてもその独自性で注目されると思ったからだが、個人的にも家族の記憶を伝承したい、という思いがあった」

オランダ、清国、大日本帝国と、統治者が次々に入れ替わってきた台湾の歴史は複雑で、特に戦後は、日本が去り、中華民国が接収。その後、中国大陸における国共内戦の結果、敗れた蒋介石が中華民国ごと台湾に逃れて大陸への「反攻」拠点とし、大陸と互いに台湾海峡の対岸から長くにらみ合った。このため日本統治時代を体験した台湾人の境遇も激変した。公文書なども、かつて大陸で日本と戦った中華民国の立場で書かれるため、「明治」「大正」「昭和」といった元号に代わって、中華民国暦や「大清光緒」などが用いられ、空襲記録も「盟機によって」などと、米軍と同盟関係にあった「中華民国」の視点が持ち込まれた。

「だから、このゲームの主要なターゲットは台湾に郷土愛を感じる若者だといえる。台湾は戦後の一時期、独裁政権下にあったため、学校の教科書では台北大空襲はおろか、日本統治時代の歴史についてもほとんど触れられることがなかった。世代ごとに薄れゆく郷土や家族の記憶の一端にスポットライトをあてようと試みたのだ」と力を込めた。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい