注目ポイント
台湾を一周する「環島」がブームになって久しい。自国の風土や文化を肌で感じ、理解を深められる手段として2000年代から注目された環島は、電車、自動車、バイクなどさまざまな手段で楽しめるが、一番人気は自分の力で回ることができる自転車だ。毎年数万人もの人が挑戦する国民的アクティビティの魅力とはどんなものなのか。エッセイスト、俳優、歯科医であり、自身の環島体験記をまとめた著書もある一青妙さんにうかがった。
映画をきっかけに広がり、「台湾」を認識する国民的アクティビティに
距離にして900km以上、何日かけて台湾を一周する環島(ホワンダオ)が広まったのは2000年代後半のことだ。2007年、聴覚障害を持つ青年がギターを背に自転車で台湾を一周する映画「練習曲」が公開されると、社会現象と呼べるほどのヒットを記録。さらに台湾の自転車メーカー・ジャイアントの創業者、劉金標元会長が映画に触発され、73歳(当時)という高齢にもかかわらず約2週間かけて自転車で環島を行ったことがメディアで大きく報じられると、一気に注目度が高まった。
その背景には、いわゆる“中国人教育”の時代が終わり、台湾人が台湾について学ぼうとする意識の変化も大きく影響していたという。自身も自転車で南北縦断した馬英九前総統は「環島1号線」の整備を進めた。いまや自転車を使った環島は、家族や友人同士の旅行、学校行事としても行われ、日本人をはじめとする外国人観光客も参加するアクティビティになっている。

さまざまな背景を持つ民族や文化が共存する台湾の多様性
一青妙さんは2016年11月、環島に初めてチャレンジした。日台のサイクリストの交流促進のため2012年に四国で開催された「台日交流 瀬戸内しまなみ海道サイクリング」に参加した際、ジャイアントの日本支社長に「台湾人ならば台湾を一周するべき」と言われたことがきっかけだったという。
「何の予備知識もないまま、2016年に『FORMOSA 900』(ジャイアントが主催する環島ツアー)に参加することを決意しました。瀬戸内しまなみ海道サイクリングはクロスバイクに運動靴で参加しましたが、FORMOSA 900は9日間、毎日約100kmを自転車で走るため、ロードバイクとビンディングシューズが必要だと教えられ、それに慣れるために練習を重ねました。ペダルとシューズが固定されるのでうまく取り外せず、自転車ごと転んだりしたこともありました」

日本と台湾をルーツに持ち、台湾の教育を11歳まで受けていたとはいえ、台北以外はほぼ行く機会がなかった一青さんにとって、台湾の印象は台北や台中といった“大都市”。それが、小さな町や村に立ち寄り、地元の人と触れ合う機会が頻繁にある環島を経験したことで「台湾が持つ多様性」を強く感じることができたと話す。
「特に屏東から台東にかけての山中で見た先住民の集落、牡丹社で色鮮やかな壁画や小学校を見て、台湾の多様性を感じました。台湾の東側では太平洋の美しさにも感動したし、各地でご当地の名物料理をいただけて、食の多様性も感じました。印象深いのは、潮州の冷熱氷(温かいタロイモや豆が入ったかき氷)や關子嶺茶壺雞(鶏の丸焼き)。おやつで食べた三峽の金牛角(ドイツの焼き菓子・プリッツェルに似たパン)や新竹の干し柿、車城の蜂蜜茶なども印象に残っています」


