2023-07-05 観光

一青妙さんが感じた“環島”の魅力。台湾人としてのアイデンティティを確立、国境を超えた友情も。

© Shutterstock / 達志影像 台東・池上

注目ポイント

台湾を一周する「環島」がブームになって久しい。自国の風土や文化を肌で感じ、理解を深められる手段として2000年代から注目された環島は、電車、自動車、バイクなどさまざまな手段で楽しめるが、一番人気は自分の力で回ることができる自転車だ。毎年数万人もの人が挑戦する国民的アクティビティの魅力とはどんなものなのか。エッセイスト、俳優、歯科医であり、自身の環島体験記をまとめた著書もある一青妙さんにうかがった。

環島一号線沿いの町や村で暮らす人々にとって、環島に挑戦するサイクリストは見慣れたもの。どこに行っても「加油!(頑張れ!)」と応援してくれることも驚きだったと振り返る。

ただ、応援が力になっても900km以上を走り切ることは簡単ではない。難所の一つとされる標高差約400メートルの壽峠(屏東県と台東県にまたがる峠)では、暑さの中で延々と続く坂道に絶望し、峠を登りきった後は急な下り坂が続くため、ブレーキを握る手が痺れて大変だったそうだ。「屏東の落山風(屏東の恒春半島で9月以降に吹く季節風)に自転車が煽られたり、ペダルをいくら踏んでも前に進めなかったりと、苦しめられたこともありました。最近は電動車もあります。ある程度の基礎体力はもちろん必要だが、最後までやり抜く精神力があればどうにかなります。」

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台東・池上

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花蓮・北回帰線標誌紀念公園

大人になってから一つのことを成し遂げる達成感は格別

「台湾では女性のサイクリストが多い。日本でロードバイクに乗っている男女比は、肌感覚で8対2くらいですが、台湾はほぼ半々。家族や夫婦、カップルで楽しむ人が多く、自転車がスポーツとして定着しています。また、女性だからといって差別や偏見を感じることも少ない。いろんなものに対する免疫力がついているせいか、とにかくフレキシビリティの高い国だと改めて思いました」

これまで環島に3回挑戦している一青さんに、一番印象的な出来事も聞いてみた。

舊草嶺隧道=2016年11月(一青妙さん提供)

「約40人の団体で一緒に走ったことがあって、メインは40代から50代の人たち、いずれも社会である程度の経験を積んだ事業家などが多く、運動不足で筋肉痛に苦しんだり、毎日マッサージに通っている人もいたのですが、完走するとみんな涙を流して喜んでいました。『台湾人でありながら台湾を知らな過ぎた』『自分自身を見つめ直すいい時間だった』といった感想を聞いて、私自身、台湾人としてのアイデンティティを確立するための貴重な体験だったと実感しました。日本や中国、香港などからやってきた人たちと一緒に走り、苦楽を共にすることで、国境を越えた友情も育まれました」

環島は自転車だけでなく、さまざまな楽しみ方がある。特に台湾では自転車を持ち込めるサイクルトレインが整備されているため、自転車と鉄道を組み合わせたり、ツアーへの参加やレンタサイクルを使ったりして、各自の体力や日程に合わせ、気負わずチャレンジできるところも魅力だ。「大人になってから『一つのことを成し遂げる』達成感は格別ですから、ぜひ体験してほしいです」と語ってくれた。

環島の完走証と記念メダルを手にする一青妙さん=2017年(一青妙さん提供)
《「環島」 ぐるっと台湾一周の旅》一青 妙 (著)(東洋経済新報社)

 

 

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