注目ポイント
スイス連邦政府はこれまで、秘密主義の企業に最終的な所有者の情報開示を義務付け、透明性を向上させる法改正を行うべきだとの声に背を向けてきた。だが、対ロシア制裁で風向きが変わるかもしれない。
また、持ち株を減らしたり家族に所有権を移したりして規制の網をくぐり抜けようとする制裁対象者らもいる。ロシアのオリガルヒ、アンドレイ・メルニチェンコ氏は、EUから制裁を受ける前日の3月8日、スイスの肥料会社ユーロケムの株式を妻に譲渡した。
信託もグレーゾーンの1つだ。独語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーが入手他のサイトへした機密文書によると、メルニチェンコ氏から妻への所有権譲渡は、ユーロケムの株式の大部分を保有するキプロスの信託を通じて行われた。信託から生じる利益を誰が得て、誰が信託を管理するのか。それらを特定するのは困難とされ、多くの国では信託の構成者全員を登録することすらしていない。
ナーデルホーファー氏は「実質的支配者について透明性を提供しない法域もあるため、複数の法域にまたがる企業体もやっかいだ」と説明する。
その典型がソルウェイだ。同社を所有する持株会社はマルタにあり、その企業登記簿に記載の株主4社は全てセントビンセント・グレナディーンの同じ住所に登録されている。そしてセントビンセント・グレナディーンは、実質的支配者についての情報を提供しない法域だ。
欧州司法裁判所の判決が出るまでは、実質的支配者の情報はマルタの企業登記簿で閲覧可能だった。判決は奇しくも、米国財務省による同社制裁発表の4日後に下されている。
swissinfo.chは6月上旬、ソルウェイの法務班からマルタの登記簿の抜粋を入手した。そこに示された同社の実質的支配者は、ソルウェイ創業者アレクサンダー・ブロンシュタイン氏の息子でドイツ国籍のダン・ブロンシュタイン氏とクリスチャン・ブロンシュタイン氏だった。
しかし、企業の善意や誠実さを当てにすることは、真の解決にはつながらない。マルティニ氏は「我々はこれまで民間企業や銀行から提供される支配者情報に頼ってきた」と話す。「だが、それでは犯罪者の摘発はできない」
英語からの翻訳:フュレマン直美
この記事は「SWI swissinfo.ch 日本語版」の許可を得て掲載しております。