2023-06-24 経済

スイスの秘密主義が阻む対ロシア制裁

注目ポイント

スイス連邦政府はこれまで、秘密主義の企業に最終的な所有者の情報開示を義務付け、透明性を向上させる法改正を行うべきだとの声に背を向けてきた。だが、対ロシア制裁で風向きが変わるかもしれない。

Illustration: Helen James / swissinfo.ch

金属・鉱業の国際的企業で世界最大の民間ニッケルメーカー、ソルウェイ・インベストメント・グループの本社はスイスのツーク州にある。だが同社に関する情報を探す時、ロシアへの言及は避けて通れない。ロイターは2011年、「ロシアのソルウェイ」がインドネシアにニッケル製錬所建設中という見出し他のサイトへの記事を出した。22年3月には、同社とロシア企業がつながっているとする大がかりな調査報道他のサイトへが公表された。

米財務省は昨年11月、ソルウェイを「ロシア企業」に区分し、世界を対象に人権侵害や汚職に関与した外国当局者らを罰するマグニツキー法に基づいて、同社社員2人と子会社を制裁対象とした他のサイトへ。そのうちの1人、ベラルーシ国籍の社員についてはグアテマラの鉱業界で「ロシアの影響力を拡大するために汚職行為をはたらいた」とした。

これに対しソルウェイの取締役2人のうちの1人、デニス・ゲラセフ氏は、例外的に報道機関のインタビューに応じ、同社とロシア政府やオリガルヒ(新興財閥)との間の一切の関係を否定した。

swissinfo.chはゲラセフ氏の主張を検証するため、独自の調査に乗り出した。取材班は、スイス、キプロス、マルタ、セントビンセント・グレナディーンの会社登記簿を迷路を進むかのように追い、巧妙な企業構造と複数の国籍を持つ関係者らの結びつきをひも解いて行った。

スイス拠点の企業の場合、誰が最終的に所有・支配しているのかを突き止めるのはタマネギの皮を1枚ずつ剥がしていくような作業だ。これらの情報は、銀行や金融規制当局にとっては以前からマネーロンダリング(資金洗浄)対策上必要だが、入手は難しい。それが今、スイスが対ロシア制裁を実施する上での大きな盲点として浮上している。

英シンクタンクRUSIの金融犯罪・安全保障研究センター長で、制裁が専門のトム・キーティング氏は、ウクライナ戦争の費用を捻出しているロシア国家への資金流入を断つには実質的支配者の特定が不可欠だと言う。同氏は「国としてあらゆる情報を把握していない限り、制裁対象者と自国の司法権下で活動する企業との間に関連性が無いと主張することはできない」とし「これは制裁の実施における根幹部分だ」と話す。

ロシアのオリガルヒや政府関係者がウクライナ戦争に関連してスイスの制裁リストに載った場合、これらの人物の支配・所有企業も制裁対象になる。だが、複雑かつ不透明な企業構造によって、繋がれた数珠の最後尾にいる人物を特定することは不可能でないにせよ困難となる。
 

遅れを取り戻すには

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