注目ポイント
米バイデン政権の閣僚として初の訪中を果たしたブリンケン米国務長官。秦剛国務委員兼外相や、外交を統括する王毅政治局委員のみならず、習近平国家主席との会見も実現し、一定の成果をあげたが、依然台湾問題では平行線をたどり、中国側はハイレベルな軍事対話を拒んでいる。国際政治や安全保障に詳しい筆者が、中国が「核心的利益の中の核心」とする「台湾」などを軸に「長期化する米中対立」を展望する。
緊張たかまる台湾海峡に「有事」の懸念
台湾を巡る緊張がこれまでになく高まっている。台湾の蔡英文政権は欧米との結束を強化し、中国の習近平政権は「台湾独立」に向けた動きには武力行使を辞さない構えを崩していない。昨年8月、当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問したことがきっかけで、中国は台湾を包囲するかのように台湾北部や東部、南部などで一斉に軍事演習を実施し、中国大陸からは多数のミサイルが台湾周辺海域に打ち込まれ、一部は日本の排他的経済水域にも落下した。
今年4月には、中米訪問の帰路に米カリフォルニアに立ち寄った蔡英文総統はペロシ氏の後任のマッカーシー米下院議長と会談したが、それに合わせるように、中国海軍の空母山東が台湾南方のバシー海峡を通過し、台湾南東沖を航行。西太平洋での航行演習を初めて実施した。中国軍は4月10日まで3日間の日程で台湾周辺海域において軍事演習を行い、中国軍機の中台中間線超えや台湾の防空識別圏への進入が相次いだ。
そして、中国国務院の台湾事務弁公室の報道官は6月半ば、今後の中台関係は平和か戦争かどちらかの選択しかない現実に直面している、と台湾をけん制した。今日、習政権は約半年後に迫った総統選挙の行方を注視しており、それによって中国側の対応も大きく変わってくると予想される。一方、台湾社会では永住権を求め諸外国へ移動しようとする動きも見られ、市民の間では台湾有事への懸念が拡がっている。
第一、第二列島戦…「台湾統一」の先を見る中国
では、なぜ緊張がここまで高まっているのか。その背景にはいくつかの理由があろうが、ここでは海洋強国を目指す中国の海洋軍事戦略という視点から簡単に説明したい。2013年、国家主席になったばかりの習近平氏は訪米中に当時のオバマ大統領に対し、「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と言及した。これは太平洋分割統治論とも言われるが、要は東太平洋を米国が、西太平洋を中国がそれぞれ影響力を行使するということだ。そして、中国が描く海洋秩序として、九州から沖縄、台湾へと繋がる第一列島線、伊豆諸島から小笠原諸島を通ってグアムに至る第二列島戦が大きなポイントとなり、中国として第一列島線の内側の海を全て中国のコントロール化に置き、いずれは米軍を第二列島線の外に追いやり、西太平洋での覇権を握りたい狙いがある。
米軍が沖縄本島やグアムに駐留している現実からすると、これは夢物語かも知れない。しかし、我々が認識するべきは、“たとえ実現可能性が低いとしても、中国がその目標を放棄する可能性も低く、その間に偶発的な軍事衝突などによって戦争状態に陥る恐れがある”ことだ。