注目ポイント
日本語を駆使し、SNSでの過激な米国批判や台湾問題への言及などから、言葉の“戦狼”外交官として知られている中国の薛剣・駐大阪総領事(大使級)が、フェイクニュースをもとに台湾の警察官の行動を批判し、天安門事件の惨劇への信憑性を疑わせるツイッター投稿ををしていたことが、米国系の民間非営利報道機関による報道で明らかになった。薛氏の言動の信頼性を損なうミスとみられるが、意図的に行っていた可能性もある。その場合、民主化された台湾に親近感を持ち、中国の人権問題を懸念する日本社会を攪乱し、中国に有利な世論へ誘導する「認知戦」のひとつと見られ、手口の一端が明るみにでたかっこうだ。
東京、ソウルでも激化する“言論戦”
薛剣氏といえば、前任の何振良総領事が2020年末、在任約10か月で突然帰国し所在不明となったことで“粛清”が噂されるなか、約半年間のトップ不在を受けて2021年6月に後任の駐大阪総領事として着任。その直後の8月、米軍のアフガニスタン撤退に際しては、米軍機にしがみつき、上空からふりおとされるアフガニスタン人の姿を揶揄した人命軽視のツイートを発信したり、著名な国際人権団体が、国家安全維持法の施行で言論の自由が保障されなくなったとして香港における事務所閉鎖を決めた際には「害虫駆除」とつぶやいたりするなど、ツイッターを駆使した日本語による過激発言が物議をかもしてきた。

2022年2月のロシアのウクライナ侵攻直後にも、「弱い人は絶対に強い人に喧嘩を売る様な愚かをしては行けない」(ママ)などと日本語でツイート。これが台湾や日本への威嚇を意図したものだとして、ツイッター上では日本語や中国語、英語で「外交官失格」などと猛烈な批判を浴び、薛氏は「誤解」「曲解」などと釈明に追われたが、人が鶏を棒で打ち据えるネット上の動画をロシアとウクライナに例えた説明に、さらに批判が集中するなど、外交官としての品格が問われる言動の数々から、日本における「言論戦」の担い手、「言葉の“戦狼”外交官」として注目されてきた。
同じ中国の外交官としては、今年3月に着任した呉江浩駐日大使が4月末、東京・内幸町の日本記者クラブが開いた着任後初の記者会見で、「いわゆる『台湾有事は日本有事』という見方は荒唐無稽」とし、日本が台湾問題を安全保障政策と結び付ければ「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」などとけん制。
あらためて台湾に関し、「平和統一を求めるが、武力行使の放棄を約束しない」と強調するなど過激発言を連発したため、林芳正外相が「極めて不適切」と、外交ルートを通じて抗議する事態に発展したが、6月8日には韓国でも駐韓中国大使が韓国最大野党の代表を招待した夕食会の席上、「中国の敗北に賭ける人たちは後で必ず後悔する」とけん制し、韓国外務省が「内政干渉に当たる可能性がある」と抗議するなど、国内外で「言論戦」は激化している。

今回、薛氏によるフェイクニュースを引用したツイッター投稿が確認されたことで、今後は薛氏をはじめ中国の外交官の言動の信頼性に各方面から疑問符がつくのは必至だ。仮に薛氏が偽情報だと知ったうえで意図的にツイッターに投稿し拡散させていたとすれば、日本社会の世論を攪乱し、中国にとって有利なように誘導する「認知戦」として行っていた可能性もあり、その手法の一端が明らかになった、といえそうだ。