2023-06-21 政治・国際

認知戦か?中国“戦狼”外交官がフェイクニュースで過激ツイート 民間非営利報道機関が指摘

© 薛剣・駐大阪中国総領事(中華人民共和国駐大阪総領事館ホームページより)

注目ポイント

日本語を駆使し、SNSでの過激な米国批判や台湾問題への言及などから、言葉の“戦狼”外交官として知られている中国の薛剣・駐大阪総領事(大使級)が、フェイクニュースをもとに台湾の警察官の行動を批判し、天安門事件の惨劇への信憑性を疑わせるツイッター投稿ををしていたことが、米国系の民間非営利報道機関による報道で明らかになった。薛氏の言動の信頼性を損なうミスとみられるが、意図的に行っていた可能性もある。その場合、民主化された台湾に親近感を持ち、中国の人権問題を懸念する日本社会を攪乱し、中国に有利な世論へ誘導する「認知戦」のひとつと見られ、手口の一端が明るみにでたかっこうだ。

「米国様影響力の凄さに『感服』」

フェイクニュースを引用した薛氏の発信が明らかになったのは、5月30日のツイッター上の投降だ。警察官がうつ伏せの女性の背中に膝を折って乗り、制圧している姿の映像と、自由の女神の腰から下を警察官の足腰に合成した映像を並べ、「I CAN`T BREATHE(息が出来ない)!『民主燈台』米国様警察の『凄技』が台湾島内でも『見事』に実践されている。米国様影響力の凄さに『感服』せざるを得ない!」とツイートし、文末にはほくそ笑む顔の絵文字を3つ並べていた。

薛剣・駐大阪中国総領事が投稿したフェイクニュースに基づくツイート(Twitterより)

 

映像はツイッターや中国のSNS・微博などで拡散されていたもので、「膝で頸部を圧迫された女性が死亡した」とする情報も流布されていたが、これについて米国系の民間非営利報道機関であるラジオ・フリー・アジア(RFA)が6月1日、「台湾でも?男性警察官が膝で制圧の女性『息ができない』」と題し、アジアを拠点とする民間のファクトチェック機関「亜州事実査核実験室」(アジアファクトチェックラボ)の調査結果を報道。

それによると、制圧されている女性は台湾北部の港湾都市・基隆で、薬物事件に関与し、摘発に乗り出した警察官に暴言を吐き、公務執行妨害におよんだ可能性があることや、女性は死亡しておらず、警察官の制圧を受けた後は、自力で立ち上がってパトカーに乗り込んだことを、報道で引用された現場映像などから確認した、としている。

ファクトチェック機関の調査結果をもとにツイッター上のフェイクニュースを指摘したラジオ・フリー・アジア(RFA)の2023年6月1日の報道(RFAホームページより)

 

台湾の警察が少数民族を「虐殺」⁈

このフェイクニュースは2020年5月、米ミネソタ州ミネアポリス近郊で、偽ドル札使用の容疑で46歳の黒人男性、ジョージ・フロイド氏が警察官の制圧を受けて死亡、警察官4人が懲戒免職となったうえ、制圧にあたった警察官が殺人罪で逮捕、起訴された事件になぞらえていた。フロイド氏は警察官の膝で頸部を圧迫され、「息が出来ない」と訴えていたことなどが報じられ、警察官の人種差別が背景にあるとして全米に抗議の輪が広がった。今回、中国国営メディア系列の香港中国通訊社傘下の「通傳媒」で流布した映像には、「息ができない!中国某地区で発生した治安人員の女性へのこのような対応は毒が強過ぎ、残酷だ」と添書されていた。

しかしファクトチェック機関によると、同様の映像は「CBB新聞」名義のアカウントが、出典を明示せずに5月29日夜からツイッター上に流れていた。「映像の女性は呼吸ができず死亡した」、「女性は台湾の少数民族(原住民=先住民)パイワン族で、両親が昨年警察に殺害され、これで一家3人全員が死亡した」、などと紹介され、台湾当局に少数民族の「虐殺」を止めるよう呼びかける内容となっていたが、同機関が基隆市警察に確認したところ、そうした事実は一切なく、台湾で報じられた元来のニュース動画などでも「台湾の警察官がひざまずいて首を押さえた」「女性は息ができずに死亡した」という記述はすべて虚偽であることが判明した。

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