2023-06-20 経済

2050年までに脱炭素 スイスはどう変わるのか?

注目ポイント

18日の国民投票でスイスの有権者は、2050年までに気候中立の実現を目指す連邦政府の目標を支持した。複数の研究によれば、化石燃料なしでも安定した国のエネルギー供給を保証できる。だがエネルギー転換の専門家は、行動を大きく変える必要があると指摘する。

国民投票の少し前に発表された2つの研究によれば、エネルギー供給の安定性は保証される。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)エネルギー科学センターの専門家が5月24日に発表した研究では、目標の達成は技術的にも経済的にも可能だと結論付けている。そのためには、エネルギー需要全体の減少につながる輸送と暖房の電化が必要だという。

こうしたエネルギー転換により、電力需要は間違いなく現在の60テラワット時(TWh)から2050年には80~100TWhに増加する。だがETHZの研究者らは、国内生産の再生可能エネルギー量を増やし、近隣諸国と電力を交換すればこの需要を満たせると考える。

5月30日に発表された連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)と西スイス応用科学大学(HES-SO)の研究者による別の研究はさらに一歩進んでおり、スイスは電力を輸入することなく2050年までに気候中立を達成できると試算している。そのカギになるのが、夏季に電力を大量に生産し、冬に向けて貯蔵する太陽光発電だ。

このシナリオでは、国内6割の屋根に太陽光パネルを設置する必要がある。また、冬には風力発電の発電量も増やさなければならない。研究者は、こうした未来のエネルギーシステムは汚染度が低い上に、コストも抑えられるという。石油やガス、電力の輸入支出がなくなり、長期的には約3割の節約になる。

 

目標達成に向けて習慣を変える必要は?

間違いなくその必要はある。ミュラー氏は「報告書では必ずしも強調されないが、厳格な節制策なしにこれらの目標を達成することなどできない」と指摘する。例えば現時点では航空部門で脱炭素化できる実行可能な代替案はない。「全ての航空機をクリーンに飛ばすには世界の発電量の3割が必要だ。空の交通手段を定期的に利用する人が世界人口のわずか1%でしかないことを考えると、途方もない数字だ」

また、工業生産の一部を国内に戻し、アジアなどからの輸入を大幅に削減する必要がある。そうでなければ、エネルギー移行にかかるコストを他国が負担することになりかねない。「だが、自由貿易と開かれた市場のおかげで繁栄を築いてきたこの国の人は、そんなことをあまり言いたがらない」とミュラー氏は言う。

エネルギー転換に詳しい独立専門家で、エンジニアのマーク・ミュラー氏 Impact living

 

他国も気候中立を目指すのか?

環境関連データの分析を手掛けるプラットフォーム「ネット・ゼロ・トラッカー」によれば、148の国連(UN)加盟国が気候中立実現への決意を表明している。全ての国を合わせると世界排出量の88%、世界人口の85%に相当する。多くの国が2050年までの達成を目指す中さらに野心的な国もあり、フィンランドは2035年、ドイツは2045年までの実現を目指す。一方で、世界最大級の排出国である中国とロシアは2060年を目標にしている。

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