注目ポイント
2024年1月に行われる台湾・総統選で、第三勢力の台湾民衆党(民衆党)の柯文哲・前台北市長の勢いが増している。直近の世論調査で、与党・民主進歩党(民進党)、最大野党・中国国民党(国民党)の二大政党の候補を抜いてトップに躍り出た。民進党がセクハラ問題の対処に追われる中、若い世代を中心に柯氏の人気は高まっており、選挙戦の構図にも変化が生じている。
“第三の男”の存在感に脚光
ケーブルテレビ大手TVBSが6月14日~16日に行った世論調査によると、柯氏の支持率は33%で、民進党の頼清徳副総統(30%)、国民党の侯友宜・新北市長(23%)を上回った。5月17日に3候補が出そろった時点の調査では、侯氏(30%)、頼氏(27%)、柯氏(23%)の順で、柯氏はこの1カ月で支持率を10ポイントも上げた。
最近の各種世論調査で、柯氏は安定して20%台の支持率を得ていたものの、3位がほぼ定位置になっていただけに、選挙戦が本格化してきた時期の首位奪取に、台湾政界には衝撃が走った。
特に目立つのが、柯氏の若者層への浸透だ。20代の柯氏の支持率は58%で、頼氏(17%)、侯氏(12%)を大きく引き離し、30代の支持率も55%と2人を圧倒する。これに対し、50代では侯氏34%、頼氏29%、柯氏27%と逆転し、60代以上になると、柯氏の支持率は13%と低迷している。
中間路線強調の柯氏・民衆党に無党派層の風
政党の支持率でも、民衆党は上り調子だ。民間シンクタンク、台湾民意基金会が6月12日~13日に実施した世論調査によると、民衆党の支持率は22.2%となり、20.4%の国民党を制して2位に浮上した。1位の民進党(24.6%)にも迫る勢いで、「二大政党を追う第三勢力」の図式を塗り替えた形だ。
柯氏は6月上旬に日本を訪れ、与野党の国会議員と面会したほか、早稲田大学で講演をするなど精力的に活動した。8日には東京都内の日本外国特派員協会で記者会見し、「民進党は中国の信頼を失い、国民党は中国に従順過ぎる。両党では両岸(中台)の苦境は解決できない」と訴え、民衆党の「中間路線」をアピールした。
対中政策では、柯氏は「一つの中国」原則に基づく中台間の「92年合意」は認めていないが、「両岸は一つの家族」と公言し、「現状維持」を強調しながら、中国との対話に積極的な構えを見せている。こうした姿勢が、極端な路線を嫌う無党派層を取り込んでいるとみられる。
医師出身の柯氏は、2014年の統一地方選で民進党の支援を受けて台北市長選に初当選し、政治の道に入った。その後、民進党とは距離を置くようになったが、2018年の台北市長選で再選を果たし、2期8年台北市長を務めた。2019年には民衆党を結成し、総統選に挑む決意を表明してきた。歯に衣着せぬ物言いで大衆的人気がある半面、「質問されても答えをはぐらかすのが『柯氏の話術』だ」(ネットメディア『上報』6月9日)と警戒される面もある。

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