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ロシアが侵攻を続けるウクライナ南部ヘルソン州カホフカ水力発電所のダム決壊は、ここ数十年間の中で欧州最大級の環境災害となった。決壊の原因がロシア側による破壊工作だったのか、それとも水位の上がったダムが自然崩壊したのか、まだ解明されていない。一方、国連は「70万人が飲料水を必要としている」と支援を訴えた。
ウクライナ南部へルソン州のカホフカ水力発電所のダム決壊で、同州は広範囲にわたって町や村が浸水。洪水発生からほぼ1週間がたった今も救助活動は続いており、助けがないために動けない高齢者らの悲惨な様子が、ウクライナ国家警察が撮影した映像で明らかになった。
洪水で冠水したドニプロ川下流域の水位は低下し始めたが、ヘルソン市とその周辺地域では、依然として浸水しているという。ウクライナ側とロシア側で実効支配地域が分かれるヘルソン州全体では、46町村がいまだ冠水しているとされる。同州の西隣のミコライウ州でも、31町村が洪水の被害を受け、住民2万人近くが避難を強いられている。
国連人道問題調整室(OCHA)のグリフィス室長(事務次長)は、被災地域で「70万人が飲料水を必要としている」と支援を訴えた。
ダム下流域は川を境に南側がロシアの占領地域、北側がウクライナの統治下。ロシア側の方が低地にあり、浸水面積も広大とされる。OCHAによると、ウクライナ側、ロシア側双方の実効支配地域で、少なくとも住民計4400人が避難を強いられており、ウクライナ当局や国連などが支援を本格化させている。
米CNNによると、ダムの決壊による洪水は収まりつつあるが、ウクライナ当局は、ドニプロ川沿いに流された瓦礫で、オデーサの黒海沿岸は「ゴミ捨て場と動物の墓地と化している」と訴えた。
そんな中、ロシア軍がダムを爆破したと訴えるゼレンスキー大統領は11日、国際刑事裁判所(ICC)の代表者らが同州を訪れ調査を開始したと表明した。そして「(代表者らは)ロシアのテロの結果を目撃した」と主張。ロシア側は、決壊はウクライナの破壊工作だとし、「環境的、人道的災害につながる野蛮な行為だ」(プーチン大統領)と非難している。
ウクライナ、ロシア双方が互いに非難する中、環境問題専門家らは今回のダム破壊を「エコサイド」だと指摘する。エコサイドとは「エコ」と「ジェノサイド(大虐殺)」を組み合わせた造語で、生態系や環境破壊を示す。180億トンの貯水が一挙に放出されたことで、欧州で4番目に長いドニプロ川流域の生態系は、深刻な打撃を受けるだろうと懸念されている。
時事通信はウクライナの環境NGO「エコアクション」の話として、被害は黒海沿岸にまで及ぶ可能性があり、一部では一時的に淡水化が起こる可能性もあると伝えた。また、絶滅危惧種の固有種を含め、魚類、軟体動物、甲殻類、微生物、水生植物、げっ歯類などの「大量死」が起きる可能性もあると警告し、「死んだ生物の腐敗による水質悪化」にも警鐘を鳴らしている。