2023-06-15 政治・国際

『フォーリン・ポリシー』:米中覇権争い・海底ケーブルが新たな「鉄のカーテン」に

© Photo Credit: GettyImages

注目ポイント

世界的なデジタル化の進行により、将来より多くの海底ケーブル開発が必要となるが、新たな海底ケーブル計画は停滞している。海底ケーブル開発の停滞は経済的損失につながり、企業は政治的に不安定な水域での海底ケーブル計画を躊躇するであろうとブロー氏は指摘する。

翻訳者:椙田 雅美

中国の地政学的リスクは海底も例外ではない。今や中国の海底ケーブルは他国との分断を対進める新たな「鉄のカーテン」になりつつある。米国を始めとする西側諸国が海底ケーブル戦略によって自らの同盟国を支援するには、非友好国の領海や排他的経済水域を通らなければならず、近い将来、大規模な海底ケーブル開発は困難になると懸念されている。

米国の保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の研究員で、国家安全保障の専門家であるエリザベス・ブロー氏は5月24日、同国のニュース誌『フォーリン・ポリシー』に寄稿し、近年欧州各国で論議されてきた「デカップリング」(米国経済と世界経済の連動性が弱まること)はすでに海底で顕在化し、米中対立が海底ケーブルを変えることになると論じた。

世界的なデジタル化の進行により、将来より多くの海底ケーブル開発が必要となるが、新たな海底ケーブル計画は停滞している。ここ数年、中国当局が南シナ海を通過する海底ケーブル敷設の許可を遅らせているためだ。また米国政府も中国が海底ケーブルを利用してスパイ活動を行うことを憂慮し、Amazon、Google、Meta(旧Facebook)など大手4社における米国と香港を結ぶ海底ケーブル敷設計画を承認しなかったため、2社は台湾とフィリピンを結ぶルートに計画を変更した。

中国政府は米国への報復的に南シナ海を通る海底ケーブル敷設の許可を遅らせ、海底ケーブルの製造元である日本のNECが、海底ケーブルを利用してスパイ活動を行うのではないかなどと批判している。

いかなる理由にせよ、海底ケーブル開発の停滞は経済的損失につながり、企業は政治的に不安定な水域での海底ケーブル計画を躊躇するであろうとブロー氏は指摘する。

米中間の海底紛争は、他の国々の海底ケーブル計画にも影響を及ぼしている。例えばインドの大手海底ケーブル会社グローバル・クラウド・エクスチェンジ(GCX)社は、インド、イラン、イラク、クウェート、モルディブ、スリランカ、オマーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、イエメンを結ぶ大型海底ケーブル「FALCON」計画を進めているが、もしイランとサウジアラビアが中国の仲介により結んだ新たな国交が決裂すれば、いずれかが新たな海底ケーブル敷設を拒否する可能性がある。ブロー氏も、現状から考えて開発中の海底ケーブルの多くが同盟国のみを通るルートに変更すると見ている。中国或いはそれ以外の地政学的リスクの高い水域において、事業者は新たな海底ケーブルで迂回ルートを選ぶか、計画自体を中止するだろう。いかなる企業もロシアとバルト海諸国に関わる海底ケーブルを計画しないだろうとの見解を示している。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい