注目ポイント
スイス・チューリヒ出身の芸能人としてテレビを中心に活躍する春香クリスティーンさん(31)。swissinfo.chとの取材で、自身のキャリアにおける「スイスネス(スイスらしさ)」について語った。
日本人とスイス人の政治に対する姿勢の違いは何か。理由の1つは学校教育にあるのではないか、と考える。日本の授業は教師が生徒に一方通行で講義する形式が多く、板書を書き写す時間が中心。ディベートとして議論の方法論を学ぶことはあっても、自分の考えを積極的に発信するものではない。
「スイスでは生徒が喋るのが当たり前で、先生が敢えて挙手していない生徒に当てることさえありました」。当時は積極的に発言するタイプではなかったが、日本に来て気づいた違いを探求するうちに政治の世界にはまり、いつしかニュース番組で「ご意見番」を務めるようになった。
公用語が4つあるスイスでは当たり前な語学力の高さもキャリアの役に立っている。外国語への苦手意識が高い日本では、日英独仏(フランス語は衰えた)の4カ国語ができると珍しがられた。2016年に難民問題に揺れるドイツや、2017年のフランス大統領選を現地語で取材。町中の人にインタビューし、記者でも専門家でもない立場から視聴者目線で現場の空気を伝えた。
ネット投票とマイナンバーカード
そんなクリスティーンさんが注目しているスイスの政治トピックは電子投票(インターネット投票)の行方だ。長年の試みの末に2019年にいったん頓挫したが、今月18日の国民投票で一部の州の有権者を対象に復活する。
ネット投票は在外スイス人にとって便利なのはもちろん、身障者や多忙で投票しにくい人も投票しやすくなる。「ここまでネットが生活に浸透して色々な行政手続きもオンラインでできるなか、投票もできたら便利だろうとは思います」
だが気になるのはやはりセキュリティー面だ。特に日本では最近、マイナンバーカードと健康保険証を連携する際に他人の情報が誤って登録されてしまう事例が相次いで発覚した。「選挙でAさんに投票したつもりがBさんに投票されていたら、選挙制度の根幹が崩れてしまいます。不正やシステムエラーをどうやって防ぐのかは気になるところです」
ウクライナ戦争で揺らぐスイスの中立政策にも注目する。スイス製武器の再輸出問題は日本のメディアでも取り上げられた。「これまでスイスが小国ながら世界に存在感を示せている理由の1つは、中立国として国際会議の場所を提供したり、仲介役を務めたりというこれまで築き上げてきた地位があります。それがなくなってしまうとスイスはどうなるんだろう、という思いで見ています」
日本にないもの
スイスで過ごした年月に、日本に来てからの年月が近づいてきた。強い希望を持って移住を決めただけに、数年間はホームシックになってもスイスに戻らなかったという。だが仕事が軌道に乗ってきた2017年、ふと肩の荷が下りて故郷に戻ると、以前とほぼ変わらないチューリヒの街並みと懐かしい空気がクリスティーンさんを迎え入れた。「違う場所になっちゃったという感覚はなく、ああ戻ってきたな、と感じました」