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5年前にユネスコ(国連教育科学文化機関)を脱退した米国が、7月に再加入する見通しとなった。アズレ事務局長が今週、フランス・パリにあるユネスコ本部で開かれた臨時の会合で明らかにした。米国不在で、技術覇権を狙う中国の影響力が強まることに懸念が広がる中、バイデン米政権は復帰を決めた。
トランプ政権時の2018年にユネスコ(国連教育科学文化機関)を脱退した米国が再加入の意向を表明し、アズレ事務局長が12日にパリの本部で開かれた臨時会合で加盟国に報告した。
多国間の枠組みを重視するバイデン政権は、中国が米国不在の隙を突き人工知能(AI)など最先端技術の国際的なルールづくりを主導する可能性があると懸念してきた。そのことが今回のユネスコ復帰の動機となったことは明らかだ。
米国の再加入については今後、数週間以内にユネスコ加盟国による投票に臨むことになるが、同機関最大の資金提供国だった米国の復帰に反対する国はないとみられ、承認は形式的なものになりそうだ。
米国がユネスコを脱退したのはトランプ政権下の2018年。11年にユネスコがパレスチナ加盟を承認したことをきっかけに、米国とイスラエルはユネスコへの資金提供を停止。17年7月には、ユネスコがヨルダン川西岸にあるパレスチナ自治区「ヘブロン旧市街」を世界遺産に登録したことに、米国は「反イスラエル的だ」と反発。長年にわたるイスラエルへの偏向と組織の管理上の問題を理由に、米国はイスラエルと共にユネスコからの脱退を決定した。
こうした経緯の中、自身がユダヤ系フランス人であるアズレ事務局長は、2017年の就任以来、この問題に取り組んできたことが功を奏した。同氏は、米国の意向を発表した12日、「ユネスコにとって歴史的な瞬間」とし、「今日は多国間主義にとって重要な日でもある」と強調した。
アズレ氏はこれまで、ユネスコのデリケートな決議案をめぐって、ヨルダンやパレスチナ、イスラエルの外交官らとの合意形成を図り、その努力が幅広い支持を得た。また、米議会の民主・共和党両党の議員らとも会い、こうした取り組みについて説明。超党派との交渉により、来年の大統領選挙の結果いかんにかかわらず、米国のユネスコ復帰は長期にわたるものであるとの自信を表明した。
AP通信によると、米国のバルマ国務副長官(管理・資源担当)が先週、アズレ氏に提出した復帰を正式に表明する書簡は、中東に関する議論の非政治化とユネスコの経営改革に言及した。米国の復帰は、世界遺産プログラムのほか、気候変動対策や女子学生への読書教育プロジェクトを進めるユネスコにとって、大きな後押しとなるとみられる。
一方、米国のバス管理担当国務次官は3月、米国のユネスコ脱退は中国の存在を強化し、「自由世界のビジョンの促進を妨げることになる」と指摘。ユネスコは世界の技術と科学教育の基準を設定し、形成する鍵となっているとし、「デジタル時代における中国との競争に真剣に取り組むのであれば、米国はこれ以上不在にするわけにはいかない」との考えを表明していた。