注目ポイント
米民主党のセス・モールトン下院議員が先頃開催された国際会議で、中国の台湾侵攻を阻止するため、半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)を爆破すべきだと発言したことに対し、台湾の野党が激しく反発し、米国の学者も反対している。
また、中国が武力侵攻を選んだ時はどんなに代償を払っても構わない、言い換えれば台湾の半導体産業が破壊されるという仮定は北京の武力行使の抑止力にはならないと見る。それゆえ台湾の工場を破壊する計画は、「中国の抑止効果を高めることにはならない」との見方を示す。
次に、台湾で最も有名で、台湾人の誇りであるTSMCを爆破するという議論は、間違いなく中国のプロパガンダ機関への大きな贈り物になると述べる。中国メディアは、2023年2月にバイデン政権の「TSMC爆破計画」を大々的に報じ、秦剛外相も3月に行われた記者会見で「なぜ米国は二言目には地域の平和と安定を守ると言いながら、裏で「台湾爆破計画」を策定するのか」と反論した。
サックス氏は、中国がこの機に乗じて「アメリカは信頼に値するパートナーではない」とか「アメリカと台湾の利益は一致しない」「アメリカは台湾を米中競争の駒として使っている」などの噂を広めており、台湾人が自信をなくし、中国の要求を黙ってのむ政治家への支持につながりかねないと警告する。「台湾を破壊することで台湾を救う」という考え方は、台湾人の武力侵攻を阻止する決意を挫く可能性があると見る。
サックス氏が挙げた3つ目の最も重要なポイントは「半導体工場の破壊は不要」であるということだ。なぜなら「米国は武力に頼らずとも中国に台湾の半導体チップを渡すことはない」からである。万が一、中国が台湾を併合したとしても、米政府はアプライド・マテリアルズ(AMAT)やラムリサーチ、KLAなど米国の大手半導体装置メーカーに台湾企業との取引禁止を命じることができる。半導体の材料であるウェハーや検査測定装置の多くは米国製であり、中国がTSMCを手に入れたとしても、アメリカが供給する装置がなければ、アメリカと同じ土俵での競争にはならないとサックス氏は指摘する。
サックス氏は、国内の半導体産業を再建するためにアメリカができることはたくさんあるが、台湾の半導体工場爆破計画を議論することは不必要であるばかりかむしろ逆効果だとの考えを示した。
「TSMC爆破」発言がTikTokで拡散、呉外相「中国による認知戦」
サックス氏の懸念は現実のものとなり、モールトン議員の「TSMCを爆破する」発言は、中国の動画投稿アプリTikTokでその発言のみを切り取って中国語字幕をつけた動画が作成され、SNSで広く拡散された。モールトン議員の発言は、前後を通して聞くと中国の武力侵攻に対する一つの案として語ったに過ぎず、自ら「最善の戦略ではない」「台湾人はこの案を歓迎しないだろう」とも付け加えている。しかし、恣意的に編集された動画を見ると、モールトン議員の発言はアメリカの陰謀論に合致しているように受け取られかねない。