2023-06-12 経済

「TSMC爆破」で中国の台湾侵攻を阻止できるか 米専門家「むしろ逆効果になる可能性」

注目ポイント

米民主党のセス・モールトン下院議員が先頃開催された国際会議で、中国の台湾侵攻を阻止するため、半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)を爆破すべきだと発言したことに対し、台湾の野党が激しく反発し、米国の学者も反対している。

米民主党のセス・モールトン下院議員が先頃開催された国際会議で、中国の台湾侵攻を阻止するため、半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)を爆破すべきだと発言したことに対し、台湾の野党が激しく反発し、米国の学者も反対している。米専門家はこのような脅しは無用でむしろ逆効果であり、台湾人のアメリカへの信頼を損ね、中国との妥協に前向きな政治家への支持につながる可能性があると警告する。

米国で最も影響力がある外交政策シンクタンク「外交問題評議会」は9日、特別寄稿を掲載し、米政治家が行った「TSMCを爆破せよ」との発言に対して見解を示した。執筆者は米中・米台関係や中国外交政策の専門家であり、元大統領特別補佐官のデビッド・サックス研究員である。

サックス氏は記事の中で、一部の政治家が中国の台湾侵攻を阻止するため、もしくは台湾が不幸にして中国に併合されても半導体産業が中国の手に渡らないようにするため、アメリカが台湾の半導体工場を爆破すべきだと主張しているが、主張の背景には、台湾海峡における半導体の重要性を誇張していること、また半導体産業に対し根本的な誤解があると述べる。また、中国が台湾人のアメリカへの不信感を煽り、中国の侵略に抵抗する決意を弱めるよう働きかける可能性があると指摘した。

 

「TSMCを爆破」が戦略として提案された理由

サックス氏は、米軍事学者ジャレッド・マッキニー博士とピーター・ハリス博士が2021年にアメリカ陸軍戦略大学の学術誌『Parameters』で発表した論文で、中国の武力侵攻を阻止するためには、アメリカと台湾は、武力による台湾併合は中国にとって旨みがないものにするべく、効率的な焦土作戦を策定するべきだと提言した。同論文は、世界で最も重要であり、中国にとっても最重要なサプライヤーであるTSMCを使って恫喝する事が最も効果的であると示唆する。

そして同様の発言は、元国家安全保障問題担当大統領補佐官のロバート・オブライエン氏が行った最近の講演でも繰り返された。報道によると、オブライエン氏はTSMC爆破を第二次世界大戦中、フランスがナチスに降伏した後、イギリスが友軍であるフランス海軍艦隊を撃沈するという「困難な決断」を行なったことに例えて語ったという。

これに対し、サックス氏は記事の中で3つのポイントを挙げて反論する。まず、こうした脅威のストーリーが、中国の意思決定者にとっての半導体の重要性を殊更に誇張していると述べ「中国の台湾併合への野心は、半導体の登場以前から始まっており、台湾が貧しい農耕社会であった頃から、中国は台湾併合という政治目標を達成しようと決意していた」と指摘する。

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