注目ポイント
台湾には300を超える夜市がある。地図を広げると3分の2以上の町村に1つ以上の夜市があることになり、その密度の高さは、台湾人の食に対する情熱を表している。 夜市が好きなのは台湾人だけでなく、外国人観光客も必ず訪れる場所となっている。ワンコインで食べられるサツマイモ団子や臭豆腐、豆花、素麺や春巻きなどのB級グルメがあふれかえる。暑い夏も、日が暮れれば涼しい風が吹き、ラフな服装にサンダル履きで歩きながら、アジアらしい人ごみの中を歩くことができる。夜市は年中無休のカーニバルのようでもあり、台湾で最も素朴な庶民生活の縮図なのである。
文・蘇晨瑜 写真・莊坤儒
台湾の夜市は世界に知られている。CNNがかつて報じた「誰もかなわない」台湾のトップ10の中で、夜市は堂々の一位に挙げられた。
台湾には何ヶ所の夜市があるのだろう。経済部(経済省)中部事務所の調査によると、2023年1月4日現在、台湾で登録されている夜市は164ヶ所に上る。中でも多いのは台南市の49で、言い換えれば人口3万7816人に1か所の夜市がある計算になる。この調査の対象は不定期に開かれる流動夜市だけで、さらに大型の観光夜市を含めれば、300を超えると見られている。

百年を超える台湾夜市の歴史
「台湾ではなぜこれほど夜市の需要が高いのか」――夜市専門家である中央研究院民族研究所の研究員・余舜徳が調査をしたところ、台湾の特に中南部では「ほとんどすべての村落で、週に一度は流動夜市が開かれている」と言う。台北市の南港や宜蘭の近郊でも、今も流動夜市が立ち、常に多くの人出でにぎわう。
夜市には食べ物も飲み物もあり、パフォーマンスやゲームも楽しめ、ファッションや日用品も売られているため、日常のニーズをほぼ満たすことができるのである。
台湾の夜市の歴史は100年余り前までさかのぼることができ、今では世界に知られる台湾グルメの多くも夜市から誕生した。有名な食堂やレストランの多くも、最初は道端の屋台から始まったのである。港や廟の門前などで天秤棒を担いで売り歩いていた軽食が、安くておいしいというので現在の規模まで成長した。夜市は観光のためにあるだけでなく、台湾の食文化史において庶民の実生活を支えてきたのである。

にぎわいを楽しむ
オランダの心理学者で人類学者のヘールト・ホフステード博士の研究によると、台湾人は生活の中の集団主義を好み、この特性は世界で最も顕著だという。言い換えれば、台湾人は集団で同じことをするのを好むということだ。
社会学者で仏光大学社会学・ソーシャルワーク学科の林信華教授も、台湾人の生活方式は集団を好むと指摘する。「一緒に生活し、一緒に楽しむ感覚を好みます」と言う。そのため、リーダー格が声をかけると、すぐに屋台が集まって一つの夜市が形成され、屋台主同士も団結する。「これは西洋ではなかなか見られないことです」と言う。
林信華によると、夜市では屋台主のさまざまな人生や庶民の奮闘の歴史を見ることもできる。移民社会の台湾では、人々は互いに妥協することができ、したがって夜市は「人々の生活リズムをつなぐ場」で、台湾人のやさしさを感じることができる。余舜徳の研究でも、台湾の夜市はにぎやかさと、「雑然とした中に秩序がある」という特色が見られると言う。昼間は仕事に奔走し、夜になるとリラックスするために夜市をひやかしに行く。特に買い物を目的とするのではなく、仕事を終えたら楽な服に着替えてサンダルを履き、何か食べながら屋台を見て回る。田舎ではパジャマ姿で夜市に来る子供もいる。「にぎやかな人ごみを楽しむだけなのです」と言う。