注目ポイント
巨額の利益が期待される技術分野がある。メタバースだ。だが、この仮想世界の中で動くのに必要なVRゴーグルを着けると気分が悪くなる人が後を絶たない。この問題にスイスの研究者が取り組んでいる。
18歳から80歳の被験者に与えられた課題は、仮想の舞踏会用ホールで動き回り、そこにいる結婚式の招待客との接触を避けながら特定の人を見つけて交流し、さらにはサイバー酔いを経験するたびにその程度を報告するというものだった。
この研究を主導したクリスティアン・ホルツ教授他のサイトへは、「女性やVR初心者ほどサイバー酔いが重症になりがちという結果になった」と話す。ただ、年齢とサイバー酔いとの相関関係は確認できなかったという。
簡単に言うと、VRアプリケーションでは使用中に目が見ているものと内耳が認識しているものとの間にアンバランスさが生じ、そのせいでサイバー酔いの症状が現れると考えられている。いわゆる(内耳の)前庭系は人間の平衡感覚をつかさどる。
調査で使用した仮想の舞踏会用ホールでは、参加者が仮想現実の中で過ごす時間が長ければ長いほど、また仮想世界の中で動けば動くほど症状が重くなったが、ある時点を過ぎると症状が軽減したという。
成果の乏しいメタバース
仮想空間で動き回ると気分が悪くなることは、メタバースが停滞ぎみである理由の1つかもしれない。だがハイテク大企業は引き続き全力で開発を進めている。その最新の例が、アップルが発表したVRヘッドセットだ。
独語圏のスイス公共放送(SRF)のデジタルディレクター、ギド・ベルガー氏は、「基本的な技術については未解決の問題が山積している」と指摘する。「この技術に詳しい人は、ブレークスルーが来年起きるとは考えていない。10年か15年後に分かるだろう」
市場調査会社ガートナーは「ハイプサイクル」他のサイトへ(話題や評判が先行する新技術が実際に普及するまでの間、その期待が時間の経過と共にどう変化するかを示した図)で、メタバースが成熟するには10年以上の期間が必要だと見積もる。
ツークにあるルツェルン応用科学芸術大学の金融サービス研究所他のサイトへは昨秋、ルツェルン州銀行と共同でイベントを開催。銀行の顧客が1時間だけメタバースでのミーティングに参加した例を挙げた。
参加者の感想は、仮想世界に滞在すると実際の会議よりもストレスが多く、疲れやすいというものだった。またイベント報告書によると、開催場所でゴーグルを多数使用するには現時点では「非常に大きな通信容量」が必要なため、研究所は参加人数を制限せざるを得なかった。
スイスの拠点が重要な理由
仮想現実に関してスイスは先駆的役割を担う。メタはメタバースに必要なVRゴーグルや技術をチューリヒにあるスイス拠点他のサイトへで開発している。チューリヒの拠点では300人が働く。