2023-06-11 経済

サイバー酔いしない仮想現実 研究はどこまで進んだ?

注目ポイント

巨額の利益が期待される技術分野がある。メタバースだ。だが、この仮想世界の中で動くのに必要なVRゴーグルを着けると気分が悪くなる人が後を絶たない。この問題にスイスの研究者が取り組んでいる。

博士課程の学生、ルカ・スラーチェさんがヘッドホン付きのVRゴーグルを装着すると、ゴーグルの画面にジェットコースターが現れた。どこにでもあるコースターではない。現実には存在しないようなジェットコースターだ。意表を突く宙返りと急カーブで地上を離れ、どこか高いところへと向かう。

仮想ジェットコースターに乗っている間、ユーザーがどこを見ているのかをアイトラッカーが正確に計測する。またユーザーは、どの程度気分が悪いかをジョイスティックで伝えられる。

スラーチェさんは数回、目盛り最大値の10にした。実験後はしばらくの間、新鮮な空気が必要になった。サイバー酔い(VR酔い)と言われる体の不調を感じたのだ。

それこそがスラーチェさんの指導教官でスイスイタリア語大学(ルガーノ大学、USI)のピオトル・ディデク他のサイトへ氏が率いる研究グループのテーマだ。ディデク氏は「人はどのように画像を知覚するのかに関心がある」と話す。

以前の実験では被験者計25人が参加。そのうち3人は座っていただけなのにひどく気分が悪くなり、ジェットコースターでの走行を中断するほどだった。

仮想現実(VR)内では、人によってめまいや頭痛、倦怠感、発汗などの症状が出る場合がある。

ハイテク大手にとってこれは問題だ。2021年に「フェイスブック」から社名変更したメタは、人間同士が簡単にリアルタイムで交流できることを目指す没入型デジタルプラットフォーム「メタバース」に多額を投資している。マイクロソフトの投資額は今年メタを上回っており、グーグルは3位につける他のサイトへ

頻発するサイバー酔い

サイバー酔いが決して珍しい現象でないことは、メディアの報道を見れば明らかだ。経済紙ハンデルスツァイトゥングの記者他のサイトへは、世界経済フォーラム(WEF)のバーチャル展示「グローバル・コラボレーション・ビレッジ」で、没入型熱気球から下を見た時に気分が悪くなったと報告している。

またドイツ語圏の隔月刊誌NZZ Folioの記者他のサイトへはメタバース生活を体験した数日間、「カーペットの上に吐いてしまわないか心配し通しだった」と振り返る。

いわゆるメタバースを成功に導くためには、テック大手はこの問題の解決策を探らなければならない。この分野で、テック企業が期待を委ねるのが研究界だ。

チューリヒでの大規模研究

連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のセンシング・インタラクション・認知ラボの研究者たちは、昨年ある会議で発表した研究報告書の中で「サイバー酔いはこの数十年間、仮想現実の普及を阻む主要な障害の1つだ」と指摘する。この研究はサイバー酔いの分野では過去最大の実地調査他のサイトへで、被験者837人を対象に実施した。

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